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わが国の肝移植の未来,適応や術式などの方向は?

No.5068 (2021年06月12日発行) P.50

藤井 努 (富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科教授)

江口 晋 (長崎大学大学院移植・消化器外科教授)

登録日: 2021-06-09

最終更新日: 2021-06-08

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  • 2010年に臓器移植法が改正され脳死肝移植症例は増加しましたが,欧米と比してわが国の肝移植は全体的に増加傾向とは言えないのが現状かと思います。疾患特異性や民族性,宗教観なども関係するとは思いますが,肝移植はきわめて重要な治療選択肢だと思います。適応や術式など,わが国の肝移植は今後どのような方向に向かうのでしょうか。長崎大学・江口 晋先生にご解説をお願いします。

    【質問者】

    藤井 努 富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科教授


    【回答】

    【わが国の肝移植は年間約400例中,生体部分肝移植が8~9割であるが,脳死肝移植も徐々に増加傾向である】

    肝移植はほとんどが救命のための最終手段として施行されます。わが国では年間約400例の肝移植が施行されており,米国では年間約6000例,世界的には約1万例以上と推定されています。欧米ではその大部分は脳死肝移植ですが,近年アジアを中心に生体肝移植も増加しています。どちらも1年生存率が約85%,5年生存率が約70%と,致死的疾患より完全復活する強力な治療効果を有しています。

    2010年の改正臓器移植法施行後,本人の意思が明示されていなくても家族の承諾にて臓器提供が可能になりました。その結果,脳死下臓器提供は増加傾向にあり,2019年には過去最多の97件の臓器提供,88件の脳死肝移植が施行されました。

    一方で,脳死肝移植待機者約350人に比して臓器提供数が少ないという状況は続いています。特に小児例を中心に提供肝の分割(split)例も増加しており,提供された臓器を最大限に患者の救命に資するため移植医の努力も続いています。また,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)に対するdirect-acting antivirals(DAA)の開発等によってHCV陽性患者の肝移植成績が向上し,生体肝移植ではリツキシマブ等のB細胞抑制性の免疫抑制薬を用いることにより,現在ではABO血液型不適合でも肝移植適応となっています。生体肝移植のグラフト選択においては,ドナーの安全性のため,右葉と比較して容量の小さい左葉グラフトでも十分に治療効果を発揮することが報告され,移植成績,生体ドナーの侵襲低減も安定した方向に向かっています。

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