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夜盲症[私の治療]

No.5064 (2021年05月15日発行) P.41

平形寿彬 (順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科)

登録日: 2021-05-17

最終更新日: 2021-05-11

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  • 暗順応障害により夜間や暗所での視認性が低下する状態のことである。先天性と後天性のものがある。

    ▶診断のポイント

    【疾患】

    代表的な先天性疾患は停在性夜盲,小口病,白点状眼底,網膜色素変性,錐体杆体ジストロフィー,コロイデレミアなどが挙げられる。代表的な後天性疾患はビタミンA欠乏症であり,ビタミンAの吸収や代謝が障害される状態に続発して夜盲症が出現する。ただ,現代のわが国の食生活では,栄養失調によるビタミンA欠乏は非常に稀となった。具体的なビタミンA欠乏の原因としては,小腸疾患・腸切除術などによる吸収障害(クローン病,強皮症,小腸広汎切除),胆汁の減少に伴うカロテノイドの吸収障害(膵頭十二指腸切除),肝機能低下に伴う貯蔵障害やレチノール結合蛋白の合成障害などが挙げられる1)。眼球鉄錆症は眼球内に飛入した鉄片が放置されると発症し,網膜色素変性と類似した臨床所見を呈する。また,網膜自己抗体が原因とされる自己免疫性網膜症も夜盲を生じうる。特に,抗TRPM1抗体によるON型双極細胞の障害を特徴とする悪性黒色腫随伴網膜症(melanoma-associated retinopathy:MAR)は夜盲を呈することが多い。その他,網脈絡膜炎や近視も夜盲の原因となることがある。

    【症状】

    夜間・暗所での視認性の低下を生じる。通常,健常人においても暗所では明所と比べ視力などが低下するが,夜盲症患者の場合は著しく低下する。また,日常生活で暗いところを必要以上に怖がる。夜間・暗所での転倒や事故などを経験していることもある。疾患によっては,視野障害,視力障害まで伴うものもある。

    【検査所見】

    全視野網膜電図における杆体応答の低下,杆体錐体混合応答でa波,b波の低下(陰性型)。網膜色素変性では消失型の波形を示すことが多い。自己免疫性網膜症の初期では網膜所見に比して,全視野網膜電図の異常が目立つことも多い。暗順応計で暗順応過程の光覚検査を行い,暗所視覚の減弱を検出し,その程度を定量することが可能である2)。Kohlrauschの屈曲点(第一次暗順応と第二次暗順応の移行点)の有無,Kohlrauschの屈曲点までの時間およびそのときの閾値,最終閾値および最終閾値に達するまでの時間をみる。眼科疾患の中には,金箔様眼底(小口病),網膜白点(白点状眼底),視細胞や網膜色素上皮の萎縮など,特徴的な眼底所見を有するものがある。また,ビタミンA欠乏症の場合,血液検査におけるビタミンA値の低下(基準値97~316IU/dL)や低蛋白血症,眼科診察所見での角膜軟化症,Bitot’s spot,眼球乾燥症が確認されることがある。
    眼球鉄錆症では,頭部CT検査や超音波検査で眼球内の鉄片異物を確認する。MRI検査は絶対禁忌である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    まずは原因検索を行うことが重要である。特に,詳細な問診は夜盲症の原因疾患の特定の手助けとなる。さらに,全視野網膜電図を含めた眼科での精査は重要である。自己免疫性網膜症は稀な疾患ではあるが,腫瘍性疾患に伴い発症するものもあり,疑われる場合には全身検索を行うこともある。眼球鉄錆症に対しては早期発見,早期手術が求められる。

    残念ながら,先天性夜盲症疾患に対しては現状において確立された治療法はない。しかし,正しい診断を行うことで日常生活におけるアドバイスを行うことが可能となることもあり,眼科専門医への受診を勧める。ビタミンA欠乏症の場合は,ビタミンAの補充が主な治療となる。治療効果の判定には血液検査でビタミンA値の正常化を,全視野網膜電図で網膜機能の回復を確認する3)

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