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急性副腎皮質機能不全(副腎クリーゼ)[私の治療]

No.5051 (2021年02月13日発行) P.38

宗 友厚 (川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学教室教授)

登録日: 2021-02-13

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  • 急性副腎皮質機能不全(副腎クリーゼ)は副腎皮質ホルモン,中でもコルチゾールを代表とするグルココルチコイドの急激な絶対的・相対的不足に起因する病態であり,迅速かつ的確な処置をしなければ生命に危険が及ぶ,内分泌救急の代表である。ステロイド内服の急な中止,下垂体卒中,両側副腎出血など,短い間に重度のステロイド欠乏をきたす様々な原因で起こりうる。脱水,ショック,低血糖,発熱等の多彩な症状が同時多発的に出現・進行し,重篤な病態となる。副腎不全が原発性か二次性かによって病態は異なる。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    ①倦怠感,脱力感,易疲労感などの非特異的症状で始まる。無気力,抑うつ,昏迷等の精神症状がみられることもある。

    ②腹痛,悪心・嘔吐,下痢,食欲不振など消化器症状を訴えることが多い。どうしてかはいまだに不明である。

    ③発熱は微熱程度であるが,感染を伴うと高熱になる場合がある。髄膜炎菌性敗血症で高熱と広範な皮下出血をきたすWaterhouse-Friderichsen症候群は成書で有名であるが,現実には起炎菌は多彩である。免疫・炎症反応抑制に働くグルココルチコイド作用の欠如や,高サイトカイン血症に対するコルチゾール反応の欠如などによる。

    ④続いて急激な脱水状態,血圧低下,意識障害を呈し,ショックに陥り死に至る。腎や血管でのグルココルチコイド・ミネラロコルチコイド作用の欠如による。

    ⑤慢性副腎不全の急性増悪として発症するものが大半であるため,下垂体~副腎系疾患の症候を見逃さないようにするのが大切である。アジソン病では,口腔粘膜・歯肉・舌・爪の色素沈着が特徴的であり,クリーゼ発症の誘因として感染症が多い。女性の副腎皮質機能低下症では,副腎アンドロゲンの低下のため,腋毛・恥毛の脱落を認める。一方,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症などのACTH分泌不全によるものでは,色素沈着がなく低血糖が前面に出ることが多い。

    ⑥視床下部・下垂体~副腎系疾患や,ステロイド長期大量投与を要する疾患の既往を確認する。

    【一般検査所見】

    末梢血液像で好酸球数増多がみられることが多い。感染を伴う場合は,白血球増加やCRP上昇をみる。

    電解質では血清Naが低下する。バソプレッシン作用抑制の欠如も関与する。血清Kは基準内にとどまる例が多いが,ミネラロコルチコイド分泌不全もあれば上昇する。低血糖がみられ,肝糖新生減少による。循環血漿量低下を反映して,BUNやCr増加を認める場合もある。

    【診断のための検査】

    本症の確定診断にはコルチゾールの分泌低下を証明する必要があり,治療前に採血,血中ACTHとコルチゾールを同時に測定し,フィードバック機構に基づきバランスを考慮して解釈する。結果は後に確認されることになる。実際には,一部の症例で低値とならない場合もあるが,ストレス時に必要とする量でなければ急性副腎不全が発症する。状態が安定すれば,さらに迅速ACTH負荷試験を行って,コルチゾールの分泌反応の低下・欠如を確認する。具体的には,非ストレス下早朝コルチゾール値4μg/dL未満であれば副腎不全の可能性が高く,迅速ACTH試験で負荷後30・60分値が18μg/dL未満であれば副腎不全を疑う。

    血中ACTHは,副腎自体の器質的障害による原発性副腎皮質機能低下症では異常高値を示し,視床下部や下垂体の異常などによる続発性(二次性)副腎皮質機能低下症では低値を示す。当然,膠原病などステロイド長期大量投与時も抑制されている。

    下垂体MRIや副腎CTで,腫瘍や出血壊死の有無など,鑑別に利用する。

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