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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症[私の治療]

No.5043 (2020年12月19日発行) P.36

山口哲央 (東邦大学医学部微生物・感染症学講座講師)

登録日: 2020-12-19

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  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症は,通常のメチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)感染症と基本的に病態は同じと考えてよく,皮膚軟部組織感染症,肺炎,血流感染症,椎体炎などが問題となる。使用できる抗菌薬が限られるため,治療法はMSSA感染症と大きく異なる。黄色ブドウ球菌感染症におけるMRSAの割合は,市中感染症では約2割,医療関連感染症では約5割である。
    入院患者で問題となる院内感染型MRSA(hospital-associated MRSA:HA-MRSA)に加えて,近年では健常人に感染する市中感染型MRSA(community-associated MRSA:CA-MRSA)の増加が問題となっている。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    黄色ブドウ球菌は通常,鼻腔や皮膚に保菌状態で生存するが,いったん血流内に侵入すると侵襲性が高く,様々な部位に転移性病変を引き起こす。最も遭遇する機会が多いのは皮膚軟部組織感染症であり,膿痂疹,毛包炎,癤,廱,蜂窩織炎などが含まれる。医療関連施設では,血管内留置カテーテルなどの医療デバイスを介して血流内に侵入し,敗血症,骨髄炎,関節炎,心内膜炎などを引き起こす。毒素性食中毒や,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS),毒素性ショック症候群(TSS)など,毒素に関連した感染症も重要である。

    症状のみではMRSAによる感染症と診断することは難しいが,過去に抗菌薬投与歴がある場合や,抗菌薬治療抵抗性の感染症ではMRSA感染症を念頭に置く必要がある。

    【検査所見】

    確定診断は,感染巣から採取された検体の培養検査においてMRSAを検出することである。MRSAとは,mecA遺伝子を保持することでオキサシリン耐性(現在ではメチシリンは市販されておらず,オキサシリンがMRSA診断薬として用いられる)を示す黄色ブドウ球菌のことであり,薬剤感受性検査(微量液体希釈法)においてオキサシリン最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)≧4μg/mL,もしくはセフォキシチンMIC≧8μg/mLを示す。

    血液などの本来無菌である臓器からMRSAが検出された場合は,迅速に治療を開始する。皮膚や口腔内,および口腔を経由して採取される喀痰などからMRSAが検出された場合は,保菌の可能性もあるため,感染起因菌か否か慎重に判断する必要がある。喀痰検体では性状が重要であり,白血球が多く(菌体の貪食像があると,なおよい),唾液成分(扁平上皮)の少ない検体は信頼性が高く,このような検体からMRSAが分離された場合は起因菌と考える必要がある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    MRSA感染症の病態(感染巣)は多彩であり,感染巣により治療方針は異なる。

    毛包炎,癤,廱などの皮膚軟部組織感染症では,病態の進行具合により切開排膿を行い,必要に応じて抗菌薬投与を考慮する。内服薬としてはST合剤がよい選択肢となる。ミノサイクリン,ホスホマイシン,クリンダマイシン,レボフロキサシンなどの薬剤は,感受性検査で感性が確認されればよい適応となる。感染性心内膜炎(IE)などの血流感染症や肺炎では,バンコマイシンの点滴加療を中心に検討する。肺炎では肺組織移行性が高いリネゾリド,菌血症では殺菌力の高いダプトマイシンの投与を検討してもよい。

    【注意】

    バンコマイシンは,トラフ値20μg/mL以上で腎機能障害が増加する傾向にある。薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)を行い,トラフ値15~20μg/mLに保つことが推奨される。
    ダプトマイシンは,皮膚や骨への組織移行性は良好であるが,肺胞内では肺サーファクタントに結合し不活性化されるため,肺炎には使用できない。

    リネゾリドは,組織移行性に優れており経口薬の生物学的利用率も高く,様々な場面でよい選択肢となりうるが,長期投与に伴い血小板減少がしばしばみられるため,注意が必要である。
    すべての薬剤に対し耐性菌が報告されているため,治療抵抗性を示す場合は薬剤感受性を確認の上,抗菌薬の変更を検討する。

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