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筋性斜頸[私の治療]

No.5040 (2020年11月28日発行) P.35

川端秀彦 (南大阪小児リハビリテーション病院院長)

登録日: 2020-11-28

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  • 筋性斜頸は耳介後方の乳様突起と胸骨・鎖骨との間を結ぶ胸鎖乳突筋の筋腹内に発生した腫瘤や,それに続発する筋の線維化によって筋が短縮した結果として生じる,頭頸部の位置異常である。筋性斜頸以外に炎症性斜頸,眼性斜頸,骨性斜頸等でも同様の変形を呈するため,鑑別診断が重要である。頻度的には筋性斜頸が最も多く,一般的には斜頸といえば筋性斜頸を意味する。
    発生頻度は0.3~2.0%で女児にやや多いとされている。右側例が左側例の2~3倍の発生率で両側例はきわめて稀である。骨盤位分娩児や難産であった児に多い傾向がある。
    発生原因は確定されていないが,組織学的に出血の所見がまったくみられないことなどから外傷説は否定的で,現在は胸鎖乳突筋のコンパートメント症候群によって静脈灌流がうっ滞し発症するという説が有力である。
    組織学的には,本疾患の胸鎖乳突筋に線維性瘢痕組織と混在する大小不同の筋線維や間質の増大などの所見を認める。

    ▶診断のポイント

    【視診】

    頭部を患側に傾け顔面を健側へ回旋した特徴的な姿勢をとる。治癒が遷延する例では頭部の変形・顔面の非対称性が目立ってくる。

    【触診】

    典型的な筋性斜頸では患側の胸鎖乳突筋に弾性硬の腫瘤を触れるが,腫瘤が出生直後からはっきりしていることは少なく,出生後2~3週間で気づかれることが多い。この頃から典型的な位置をとる。腫瘤は無痛性・紡錘状で最大で母指頭大ほどにもなるが,3~6カ月以降は自然に消失し筋の短縮と緊張だけが残る。

    【理学所見】

    頸の健側への側屈と患側への回旋が制限される。神経学的異常を認めない。斜頸児には先天性股関節脱臼など,他の四肢・体幹の異常の合併頻度が高いという報告もあり,全身の注意深い診察が必須である。

    【画像所見】

    超音波断層検査は無侵襲性で腫瘤の位置・大きさ・おおまかな性状を把握することができる。超音波画像で筋内に線維性の索状構造が認められるものは予後不良である。単純X線写真は骨性斜頸との鑑別に用いられる。MRIは胸鎖乳突筋の左右差や,線維化の評価ができるだけではなく,炎症性斜頸などとの鑑別にも有用である。

    【鑑別診断】
    〈骨性斜頸〉

    出生直後から可動域制限を伴った斜頸が存在する場合や,頸の側屈制限と回旋制限の組み合わせが典型的でない場合に鑑別疾患として挙がる。単純X線写真が骨性斜頸の鑑別に用いられるが乳幼児では読影が困難な場合も多く,その場合3D-CTが有用である。

    〈炎症性斜頸〉

    生後半年を過ぎて初めて筋性斜頸が発生することはなく,それ以降に頸の運動制限が発症したことが明らかであれば,炎症性斜頸を疑うべきである。炎症性斜頸では先行する咽頭炎や扁桃腺炎などの急性炎症症状があることが普通である。上位頸椎の関節弛緩が基盤にあって環軸椎亜脱臼を伴うことが多く,CTなどによる上位頸椎の評価が必要である。

    〈眼性斜頸〉

    眼性斜頸は眼球の回旋偏位がある場合に複視を避けるため頭を傾け生じるとされる。重症のものは頸部がすわる前に回旋時の眼位異常として指摘されるが,坐位になり物を注視するようになってから頭位異常が明らかとなり,斜頸として紹介されることが多い。眼性斜頸においては頸部可動域は正常で,患側の眼を閉眼させることで斜頸が消失することが特徴である。

    〈向き癖〉

    子宮内で胎児が窮屈な姿勢をとっていたことによって,生後,いわゆる向き癖を生じている例は時に筋性斜頸と混同される。受動的な頸部可動域制限がないことで区別可能である。

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