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A型肝炎[私の治療]

No.5022 (2020年07月25日発行) P.40

川上万里 (岡山済生会総合病院肝臓病センター主任医長)

岡本宏明 (自治医科大学医学部感染・免疫学講座ウイルス学部門名誉教授・客員教授)

登録日: 2020-07-24

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  • 4類感染症で,A型肝炎ウイルス(HAV)が起因ウイルスである。感染様式は主に以下の3つ,すなわち①HAVに汚染された水や食材(国産・輸入:牡蠣,刺身,肉類,野菜,果物等)の経口摂取による国内感染,②衛生状態の整わない海外での感染,③性交感染である。男性同性愛者(men who have sex with men:MSM)のoral-anal-contactは感染リスクが高く,Europrideなどでの流行株が国内に持ち込まれている。感染は一過性で慢性化はない。感染後に終生免疫を獲得する。下水道完備等衛生状態の改善により,戦後生まれの日本人の抗体陽性率は10%以下となったため,わが国では高齢者も感染リスクを持つ。小児期は不顕性感染で,青年期以降は顕性化傾向が強い。特に高齢発症例は重症化しやすく,注意を要する。

    ▶診断のポイント

    潜伏期間は2~6週間である。感染推定時期の海産物等の喫食や海外渡航歴,性交渉についての問診が重要である。前駆症状は発熱,咽頭痛,頭痛等感冒様症状で,全身倦怠感,心窩部痛,食欲低下,悪心・嘔吐等を伴い,黄疸や褐色尿を呈する。血液検査では他のウイルス性肝炎と同様に,AST/ALT優位の肝障害,ビリルビンの上昇を認める。IgM-HAV抗体が特異的で,発症1週間以内に陽性となり,3~4週間後にピークに達し,3~6カ月後に陰性化する。病初期に陰性である場合もあり,疑われる場合は1週間後に再検する。MSMを含め,性感染の場合はHIV感染の有無をチェックする。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    対症療法が基本である。肝血流量の増加が肝再生を促すため,安静臥床が第一である。糖質主体の食事と補液を行い,毎日の排便を心がける。急性肝障害時は尿素サイクルが障害されているため,アミノ酸製剤は使用しない。AST/ALT値のピークから1~2週遅れて黄疸がピークに達するが,黄疸が4週間以上続くこともある(遷延性胆汁うっ滞)。肝障害は宿主免疫応答によるものなので,重症化が危ぶまれるときはステロイドパルス療法を行う。稀に劇症化への移行もあるため,プロトロンビン値や意識レベルに注意し,劇症化や予後予測の予知式と照らし合わせ,重症化の徴候があれば専門施設に搬送し,特殊治療や肝移植の時期を逸さないようにする。
    *劇症化予知式1)
    [http://intmed1.iwate-med.ac.jp/calc/calc.html]
    予後予測予知式2)
    [http://www.thealfascore.com/]

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