株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

外ヘルニア[私の治療]

No.5022 (2020年07月25日発行) P.40

平松康輔 (虎の門病院消化器外科下部消化管)

黒柳洋弥 (虎の門病院消化器外科(下部消化管)部長・副院長)

登録日: 2020-07-23

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 外ヘルニアとは,壁側腹膜に包まれた腹壁の裂隙を通じて腹腔内臓器が脱出した状態をいう。鼠径ヘルニアが最も多く80~90%を占める。そのほかにも大腿,腹壁,閉鎖孔,臍,上腹壁,半月線(スピーゲル)ヘルニアなどがある。成人鼠径ヘルニアの原因は腹圧の上昇と筋膜の抵抗差とされてきたが,近年では,後天的な全身性のコラーゲン組織代謝障害による筋膜・腱膜の脆弱化が一因で起こると考えられている1)。明確な予防法はないものの,適度な運動と禁煙が発生率低下に有用とされる。

    ▶診断のポイント

    還納性ヘルニアの場合は,立位や腹圧上昇時に腹壁の膨隆を生じ,臥位で消失する。触診上,膨隆は軟らかく触れる。膨隆した周囲の痛みや違和感を訴えることもあるが,無症状のこともある。嵌頓した場合には,脱出臓器により症状が異なる。腸管が脱出した場合は,腸閉塞の症状がある。具体的には嘔気や嘔吐,腹痛を生じ,便やガスが出なくなる。また,絞扼した腸管を触れる。血流障害を伴う場合,著明な圧痛,ヘルニア周囲の皮膚の発赤を生じるようになり,その後,発熱や血液生化学検査で白血球やCRPの著明な上昇という全身性反応に至る。

    ヘルニアの診断は視診および触診でつくことが多いが,特にヘルニアが小さく還納性の場合には,診察時に膨隆を認めないこともある。その場合は腹圧をかけてもらいながらCT検査を行うことで,ヘルニア門および脱出臓器を確認できることもある。嵌頓時には,造影CT検査を行うことでヘルニア囊内の脱出臓器の状態,腸管であれば腸管壁の造影効果の減弱や腸管気腫の有無などにより絞扼の有無を判断する。また,腸閉塞による口側腸管の拡張の状況を確認し,術式決定の参考にする。

    ▶私の治療方針

    唯一の治療は手術であり,自然治癒することはない。ヘルニアバンドによる保存的治療も推奨されない2)

    還納性の場合は待機的手術を行う。問題は手術適応についてである。有症状の場合や嵌頓の既往がある場合は,手術適応と考える。無症状や膨隆のみの訴えの場合は,年間嵌頓発症率が1%以下のため,嵌頓のリスクを十分説明した上で,患者の希望をもとに手術を行うかどうかを決定する。また,重篤な併存疾患を持つ場合や,高齢者でADLが低下している場合は,リスクとベネフィットを考慮し慎重に手術適応を判断する。

    嵌頓時は,発症から12時間以内かつ造影CTで腸管壊死を疑わない場合は,徒手整復を試みる。徒手整復不能の場合は緊急手術の適応である。発症後12時間以上経過した場合は,徒手整復を行うかどうか慎重に判断する。また,徒手整復が成功した場合でも,遅発性の腸管穿孔を生じる可能性があるため経過観察入院を行い,待機的手術を予定する。著明な圧痛や皮膚の発赤がある場合や,造影CTで腸管壊死が疑わしい場合には,徒手整復は禁忌であり,緊急手術の適応である。

    残り1,082文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    関連書籍

    関連求人情報

    公立小浜温泉病院

    勤務形態: 常勤
    募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
    勤務地: 長崎県雲仙市

    公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
    現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
    2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
    6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

    当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
    2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
    又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

    ●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
    今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top