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アニサキス症[私の治療]

No.5017 (2020年06月20日発行) P.44

所 正治 (金沢大学先進予防医学研究センター准教授)

登録日: 2020-06-21

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  • アニサキス症(anisakidosis)は,アニサキス亜科の線虫であるアニサキス属およびシュードテラノバ属による幼虫移行症である。ヒトは第3期幼虫が寄生した魚介類を生食することで感染するが,好適宿主ではない。このため,アニサキス幼虫は生育することなく人体内を移動し最終的に死滅する。原因魚介類ではサバが最多だが,その他,アジ,イワシ,カツオ,アンコウ,サケ,イカなども原因となるため,摂食歴の聴取が重要である。
    食品衛生法上の食中毒病因物質として,アニサキスによる食中毒が疑われる患者を診断した医師は,24時間以内に最寄りの保健所に届け出る必要がある1)。例年の届出数は100件程度だが,レセプトデータでは年間7000件程度の治療実績である。これまでの症例はおおむね90%以上が日本で報告されてきたが,海外でも魚介類の消費が活発な欧州沿岸諸国や,和食の普及が進む米国などで報告がある。

    ▶診断のポイント

    アニサキス症の病態にはアレルギー反応が関与するため,アレルゲン(アニサキス幼虫)への曝露確認が必須である。即時型ばかりでなく遅延型の発症もありうることから,病因探索には発症の10日程度前までの摂食歴の聴取が望ましい。

    虫体成分に対する即時型アレルギーは,アニサキスアレルギーと消化管アニサキス症の即時発症に関与する。一方,虫体分泌抗原に対する遅発性IgE介在型アレルギーは,基本的に消化管アニサキス症の遅延発症に関与する。非感作の人体では無症状〜軽症の経過をとるが,既感作の場合は劇症になりうる。

    【症状】
    〈消化管アニサキス症〉

    胃アニサキス症は,魚介類の生食後数時間して悪心・嘔吐, 心窩部痛で発症する。時に出血性胃潰瘍がみられる。腸アニサキス症では,発症が一般に胃アニサキス症より遅く,魚介類生食後1〜10日である。腹痛,悪心・嘔吐などの腸閉塞様の症状,時に腸穿孔がみられる。

    〈アニサキスアレルギー〉

    魚介類アレルギーには,アニサキスの虫体成分および分泌抗原による感作症例が含まれ,アナフィラキシー症状(蕁麻疹,瘙痒感,血圧低下,粘膜腫脹,呼吸困難)を主症状とする2)

    〈消化管外アニサキス症〉

    死滅したアニサキス幼虫を中心に炎症性の肉芽腫が形成される。大部分は無症候性だが,消化管粘膜下,大網,腸間膜,腹壁皮下などにみられる腫瘤として,消化器系癌,虫垂炎,腹膜炎,結核性腹膜炎,皮下腫瘍などとの鑑別が必要である。虫体が胸腔内に侵入し胸膜炎を起こした症例もある3)

    【検査所見】
    〈消化管アニサキス症〉

    胃アニサキス症では,上部消化管内視鏡下で虫体を検出する。末梢血好酸球増多がみられないことも多い。腸アニサキス症では,腸閉塞所見(腹部X線写真での小腸拡張像とニボー像形成),末梢血好酸球増多がみられる。

    〈アニサキスアレルギー〉

    アニサキス特異的IgE抗体をRAST法で測定することで診断が可能である。

    〈消化管外アニサキス症〉

    摘出した腫瘤の病理切片上にアニサキス幼虫の断面がみられ,形態的特徴によって他の幼虫移行症との鑑別が可能である。末梢血好酸球増多がみられるが陳旧性では稀である。粘膜上皮下まで侵入し死滅したアニサキス幼虫による炎症性肉芽腫は,内視鏡像では粘膜下腫瘍に似るが,時間経過とともに縮小する(vanishing tumor)。

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