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多発性単ニューロパチー[私の治療]

No.5016 (2020年06月13日発行) P.48

芳川浩男 (日本生命病院特任副院長)

登録日: 2020-06-14

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  • 単ニューロパチーが身体のいくつかの部位に生じるものを多発性単ニューロパチーという。たとえば,左尺骨神経と右腓骨神経,というように離れた場所を同時に侵すこともあれば,一側下肢の総腓骨神経,外側大腿皮神経,ついで大腿神経と相次いで近隣の末梢神経を侵す場合もある。

    ▶診断のポイント

    ニューロパチーの原因として,軸索変性が主病態か,伝導ブロックを伴う脱髄があるかどうかで,診断が異なる。前者はその成因に神経栄養血管における血管炎や慢性肉芽腫などによる血管閉塞と虚血が考えられる。代表的疾患に結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PN),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinphilic granulomatosis with polyangiitis:EG PA,旧名Churg-Strauss症候群),顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA),サルコイドーシス,ハンセン病(ライ)などがある。後者には多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN)やヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染症,ライム病,クリオグロブリン血症,遺伝性圧脆弱性ニューロパチーなどが挙げられる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    EGPAは,気管支喘息・末梢血の好酸球増加・消長する肺浸潤影を伴う多発性単ニューロパチーを特徴とする。典型例では高度の好酸球浸潤を伴う血管外壊死性肉芽腫が存在し,フィブリノイド型血管炎が毛細血管とともに静脈にも認められることより,古典的PNからは区別される。ステロイドが著効を示すが,ステロイド治療後に残存する運動障害には経静脈的免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)が有用である。

    膠原病に伴うニューロパチーの多くは神経栄養血管の血管炎に伴う虚血性ニューロパチーと考えられている。典型例はPN,全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,混合性結合組織病などである。抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)陽性率が高い血管炎の代表がMPAで,治療は膠原病に準ずる。

    HIV感染症に対する治療としては逆転写酵素阻害薬2剤とプロテアーゼ阻害薬1剤の併用,いわゆるhighly active antiretroviral therapy(HAART)である。

    ライム病はスピロヘータの一種であるBorrelia burgdorferiがマダニを媒介して感染する。2期(播種期)にニューロパチーが発症する。

    クリオグロブリン血症において,M蛋白は低温下で可逆的に凝固し,末梢循環障害やレイノー現象を引き起こす。大半の症例にC型肝炎ウイルス感染症が関与する。M蛋白に対する治療はステロイドやシクロホスファミドなどの免疫抑制療法,血漿交換療法等を行う。保険適用外ではあるが,リツキシマブ(遺伝子組換え)(ヒトBリンパ球表面に存在する分化抗原CD 20に結合するモノクローナル抗体)が有効である。

    遺伝性圧脆弱性ニューロパチーには,機械的圧迫の好発部位での圧迫を避けることが原則であり,特別な加療はない。

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