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産褥乳腺炎[私の治療]

No.5015 (2020年06月06日発行) P.53

塩﨑有宏 (富山大学医学部産科婦人科学教室講師)

登録日: 2020-06-03

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  • 典型例では,圧痛,熱感,腫脹を伴った楔状病変を乳房に認め,38.5℃以上の発熱,悪寒戦慄,インフルエンザ様の身体の痛みを伴う。最も一般的な起炎菌はブドウ球菌属である。誘因として,乳頭部の亀裂・裂傷・陥没乳頭・乳汁うっ滞などがある。乳汁分泌が盛んとなる産褥1週間から2カ月までに発生しやすい。

    ▶診断のポイント

    分娩が終了し,妊娠・分娩に伴う母体の生理学的変化が非妊娠時の状態に戻るまでの期間を産褥といい,乳房では乳汁分泌が盛んになる。授乳中の褥婦が乳房腫脹・疼痛・発熱を訴えた場合には,乳頭の痛み,乳房緊満,乳腺炎,乳腺膿瘍の可能性を考え,以下を参考にして鑑別診断を行う。

    乳房緊満:乳房痛や硬結をきたすもので,産褥1週間以内に発症する。

    乳汁うっ滞:乳汁の排出が不全なため,行き場を失いたまっている状態をさす。

    乳腺炎:疼痛を伴う乳房の炎症であり,「非感染性のうっ滞性乳腺炎」と「感染性の化膿性乳腺炎」の2つに大きく分類されるが,両者が混在することもある。

    乳腺膿瘍:治療を行っても効果がみられず,乳房に赤色や暗赤色の硬結,圧痛を伴う,境界明瞭な領域が限局的に触知できる。

    難治性の乳腺炎や乳腺膿瘍の場合には,MRSA感染症や悪性腫瘍の可能性がないかを検討する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    【軽度】

    搾乳や消炎鎮痛薬の投与などを開始する。

    【中等度】

    24時間以内に症状が改善しない場合や,急速に症状が悪化する場合には,抗菌薬を投与する。長時間乳腺炎症状が持続する場合,症状が激しい場合には,細菌培養により起炎菌を同定し,感受性のある抗菌薬に変更する。

    【重度】

    乳腺膿瘍の場合には,穿刺あるいは皮膚切開で排膿する。

    【乳腺炎の発症予防】

    入院中および退院後における,授乳(直接授乳,搾乳,哺乳姿勢の指導),乳頭ケア,乳房緊満の予防についての指導は主に助産師が行っており,助産師が鑑別診断を行うことが多い。そのため,助産師との緊密な連携を構築しておくことが重要である。授乳指導や搾乳の際には手指の衛生を保つ。乳房緊満による疼痛が強い場合,局所熱感が強い場合には,消炎鎮痛薬の投与,冷湿布を併用する。

    乳腺炎予防を目的とした抗菌薬の有効性を示すエビデンスはない。

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