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天疱瘡[私の治療]

No.5011 (2020年05月09日発行) P.59

山上 淳 (慶應義塾大学医学部皮膚科学教室専任講師)

登録日: 2020-05-08

最終更新日: 2020-04-30

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  • 表皮細胞間接着において重要な役割を持つデスモグレイン(Dsg, カドヘリン型の細胞間接着分子)にIgG自己抗体が結合し,その接着機能を阻害するために皮膚・粘膜に水疱が誘導される自己免疫疾患である。自己抗体が産生される原因は不明である。主要な病型として尋常性天疱瘡,落葉状天疱瘡,腫瘍随伴性天疱瘡がある。

    ▶診断のポイント

    臨床症状・病理組織学的所見・免疫学的所見の3つを確認することが重要である。

    ①臨床症状:皮膚および口腔粘膜に多発する水疱・びらん

    ②病理組織学的所見:表皮細胞間接着障害(棘融解)による表皮内水疱

    ③免疫学的所見:直接蛍光抗体法で皮膚または粘膜の表皮細胞膜部にIgGの沈着を確認。血清中に抗デスモグレインIgG抗体を検出(主にCLEIA法による)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療に際して,その到達目標を明確にしておくことが重要である。すなわち,「プレドニゾロン(PSL)10mg/日以下および最低限の併用療法(免疫抑制薬など)により天疱瘡の皮疹のない状態」である「寛解」をめざす。その達成のためには,十分な初期治療を行うことが必要と考えられており,「天疱瘡診療ガイドライン」に示されているように,治療導入期と治療維持期にわけて治療戦略を立てていく。

    【治療導入期】

    病勢を制御することが可能となり,ステロイド減量が行えるまでの治療初期をさす。治療開始から2~4週が目安で,集中的かつ十分な治療によって,水疱新生をほぼ認めず既存病変の大半が上皮化した“disease control”と呼ばれる状態をめざす。初期治療はPSLが第一選択で,重症および中等症ではPSL 1mg/kg/日の内服が標準的な治療開始量である。初期治療で2週間ほど経過をみて治療効果が不十分と判断された場合は,速やかに免疫抑制薬(アザチオプリンなど),免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin:IVIG),血漿交換療法,ステロイドパルス療法等の追加を考慮する。なお,免疫抑制薬は血中自己抗体を減少させるまでに2カ月程度かかるため,急性期における効果よりも,ステロイド減量時の再発予防,ステロイドの早期減量効果を期待して,当院では使用できない理由(悪性腫瘍や感染症の合併など)がない限り治療開始時より併用している。

    治療導入期における病勢評価および治療効果判定には,臨床症状のスコアであるpemphigus disease area index(PDAI)を用いる。治療導入期には,最低週1回はPDAIを測定して治療効果を判定し,追加治療の必要性を常に検討し,漫然と同量のステロイドを長期にわたって投与することは避ける。ステロイド,免疫抑制薬の投与を開始する前には,糖尿病,消化管潰瘍,悪性腫瘍,感染症などの合併症の検索を十分に行う必要がある。

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