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進行性多巣性白質脳症(PML)[私の治療]

No.5011 (2020年05月09日発行) P.57

雪竹基弘 (高邦会高木病院脳神経内科部長,国際医療福祉大学特任准教授)

登録日: 2020-05-07

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  • 進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)は,JCウイルス(JCV)による中枢神経感染症の一形態である。わが国での発症頻度は約0.9人/1000万人であり,その多くは致死性であるが,近年は生存例も散見される。主に細胞性免疫の低下を背景に発症し,human immunodeficiency virus(HIV)感染症,造血器腫瘍,自己免疫疾患,臓器移植後,病態修飾療法に伴うPMLなどがある。

    ▶診断のポイント

    細胞性免疫低下の状態にある患者において,亜急性進行性の神経症候(認知機能障害,構音障害,片麻痺/四肢麻痺,小脳症状など)と,頭部MRIでの異常所見でPMLを疑い,脳脊髄液でのJCV DNAの検出や病理所見で診断する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    JCVに対する特異的な抗ウイルス薬は存在せず,PML治療において唯一の効果的な治療は免疫機能の回復である。HIV-PMLは抗レトルウイルス療法(anti-retroviral therapy:ART)の有効性が,高いエビデンスレベルで認められている。一方,非HIV-PMLは基礎疾患として造血器腫瘍,自己免疫疾患,臓器移植後などがあり,それらの疾患においては抗癌剤や免疫抑制薬などのPML誘因薬剤の使用は基礎疾患自体の治療につながっている。そのためPML誘因薬剤の中止は細胞性免疫の回復につながるが,基礎疾患が増悪する可能性がある。このことが,これらの基礎疾患を背景とした非HIV-PMLの生命予後が悪い一因となっている。

    病態修飾療法関連PMLのうち,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)に対する新規病態修飾療法に伴うPMLが特に注目されている。これはもともとMSがPMLを発症させる原疾患ではないことが重要であり,MSに対する新規病態修飾療法に使用される薬剤(ナタリズマブ,フィンゴリモドおよびフマル酸ジメチル)は,それ自体で,しかも単剤でPMLを発症させることが明確な薬剤である。これらの薬剤を使用しているMS患者においては,定期的な頭部MRIでの早期発見が望まれる。

    非HIV-PMLのうち病態修飾療法に伴うPMLの場合,ナタリズマブやリツキシマブなど,モノクローナル抗体が関与している場合は,それら抗体医薬の中止とともに,血液浄化療法による抗体の除去が有効と考えられる1)。ただし近年,MSにおけるナタリズマブ関連PMLでは血液浄化療法の効果に否定的な報告もあり,慎重な検討が必要である。

    経験的にメフロキンやミルタザピンを投与する症例も多いが,これらの薬剤の効果に関しては症例報告レベルにとどまっている。メフロキンに関しては,HIV-PMLにおいて脳脊髄液中のJCV減少効果がないことが示されている。

    免疫機能の回復に伴い,神経症候の増悪,画像所見で脳浮腫ヘルニアなどの所見がみられることがあり,免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome:IRIS)と呼ばれる。細胞性免疫回復によるJCV感染細胞に対する免疫反応と考えられるが,IRISも致命的になる場合があり,治療対象になることが多い。

    なお,PMLは稀少疾患であり,「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」は,ウェブサイトでガイドラインや最新の研究成果などを提供している2)。また,PMLの診断・治療等で支援が必要なときは,PMLサーベイランス委員会事務局〔がん・感染症センター都立駒込病院脳神経内科内,TEL:03-3823-2101(代表),FAX:03-3823-5433,E-mail:pml-info @cick.jp〕で相談を受け付けている。

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