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回虫症[私の治療]

No.5010 (2020年05月02日発行) P.46

濱田篤郎 (東京医科大学渡航者医療センター教授)

登録日: 2020-05-02

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  • 回虫(Ascaris lumbricoides)により,腸炎や肺炎などを起こす疾患である。1950年代頃まで日本国内での感染率は60%以上に達していたが,衛生思想の普及や集団駆虫の実施などにより,近年は感染率が0.01%以下に低下した。しかし,有機・無農薬野菜や輸入食品を原因とする感染例が稀に発生する。一方,海外では発展途上国を中心に約10億人の感染者がおり,海外滞在中の日本人が感染する例も少なくない。我々がアジアに長期滞在する日本人を対象に行った調査(2004年)では,回虫の感染率は約0.5%だった1)。また,最近はアジアや南米などからの外国人労働者が国内で増加しており,こうした集団で感染者が発見されることもある。

    ▶診断のポイント

    回虫は虫卵に汚染された野菜などを介して経口感染する。摂取された虫卵は小腸で孵化し,幼虫になる。その後,幼虫は肝臓や肺を移動しながら成長し,感染後2~3カ月で小腸に戻り成虫になる。成虫は20~30cmの乳白色紐状で,寿命は1~2年である。雌成虫は1日に約20万個の虫卵(長径50~70μm)を産出し,感染者は糞便内にこれを排泄するが,この虫卵は感染性を持つまでに土壌中で一定期間発育する必要がある。このため,感染者から直接,感染することはない。経口感染してから産卵開始まで2~3カ月である。

    一般に無症状であるが,多数寄生すると下痢や腹痛など腸炎の症状を起こす。多数の成虫が腸管内で塊状となり,腸閉塞を起こすことも稀にある。また,成虫が胆管や膵管に迷入すると,急性腹症様の症状を呈する。虫卵が多数感染した場合は,幼虫が肺を移行している間に肺炎(Löffler症候群)を起こすことがある。この肺炎は末梢血中の好酸球増多を伴うことが多い。なお,近年は無症状で経過し,人間ドックなどの際に検便で虫卵を検出したり,消化管の造影検査や内視鏡検査で成虫を検出したりして,発見される症例が多い。

    診断には糞便の寄生虫検査(直接塗抹法など)で虫卵を検出するが,排出された成虫(体長20~30cmの乳白色紐状)の鑑定で診断されることも多い。なお,雄成虫のみの感染では虫卵を検出できない。雌成虫のみの感染では不受精卵が検出される。

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