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膵炎(小児)[私の治療]

No.5010 (2020年05月02日発行) P.51

清水俊明 (順天堂大学医学部小児科教授)

登録日: 2020-04-29

最終更新日: 2020-04-28

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  • 急性膵炎の本態は,何らかの原因によって膵酵素が膵内間質組織に逸脱し活性化されることにより生じる膵組織や毛細血管の傷害,すなわち膵の自己消化である1)。一方慢性膵炎とは,種々の原因による持続的な膵臓の炎症によって,膵実質の線維化,膵管の拡張,および膵石などが生じ,膵外分泌機能の低下や慢性の腹痛をきたす疾患であり,小児では稀とされている1)

    ▶診断のポイント

    腹痛や悪心・嘔吐を認め,血液検査にてアミラーゼやリパーゼなどの膵酵素値の上昇があり,画像検査で膵腫大や腹水を認めれば膵炎と診断される。膵炎症状が長期にわたり継続あるいは繰り返され,膵管の拡張や狭窄,膵外分泌機能低下などを認めれば慢性膵炎と診断される。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    【急性膵炎】

    急性膵炎の初期治療では,重症への移行に十分注意を払いながら,まず膵外分泌の抑制,抗酵素療法,疼痛の軽減,体液電解質の補正,感染の予防と治療,および栄養管理などを行っていく。急性膵炎では膵外分泌酵素による自己消化が病態の中心であり,膵外分泌の抑制が治療の基本となる。実際には,絶食として,H2受容体拮抗薬の静脈投与を行い,中等症以上では胃内容の持続吸引を行い,まず膵外分泌の抑制を行う2)

    種々の保存的治療にても,臨床症状や検査所見の改善を認めない場合,あるいは増悪する場合は,多臓器不全(multiple organ failure:MOF)に対する管理を行うとともに,ドレナージ手術や膵切除術などの外科的治療の適応を決めていく。近年成人の重症膵炎に対して,腹膜灌流,血漿交換あるいは抗酵素薬と抗菌薬の持続動注療法などが行われ治療成績を上げており,小児においても今後試みていくべき治療と思われる。

    最近,北米小児栄養消化器肝臓学会から小児の急性膵炎に対するガイドラインが出された3)。早期の十分な輸液,厳重なモニタリング,疼痛コントロール,早期の経腸栄養,内視鏡的処置や手術の適応などを重視する一方で,抗菌薬投与や抗酵素療法の有効性は限定的であると述べられている。

    【慢性膵炎】

    慢性膵炎の急性増悪時の治療は,急性膵炎に準じ絶飲食を含む食事制限,H2受容体拮抗薬,抗酵素療法として蛋白分解酵素阻害薬の投与などを行う。急性増悪のコントロールがつかない場合,膵内・膵外分泌機能の低下を認める場合,あるいは膵石や蛋白栓などによる膵管閉塞により,膵管が著明に拡張している場合などは,まず内視鏡乳頭切開術やステント留置を行い,膵管の拡張が著明な場合は膵管空腸吻合術(Puestow手術)の適応となる2)

    小児の慢性膵炎の原因として最も多いのが,膵管胆道系の解剖学的異常であり,MRCPあるいはERCPにより診断される。他方,近年原因不明の慢性膵炎の中に遺伝子異常(SPINK1やPRSS1など)によるものが相当数含まれることもわかってきた。前者に対しては,外科的治療で症状の改善を認めることが多い。

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