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HELLP症候群[私の治療]

No.5005 (2020年03月28日発行) P.47

千草義継 (京都大学医学部附属病院産科婦人科)

近藤英治 (京都大学医学部婦人科学産科学准教授)

登録日: 2020-03-31

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  • HELLP症候群は,妊娠中あるいは産褥期に,溶血(hemolysis),肝酵素上昇(elevated liver enzymes),血小板減少(low platelet)を呈し,多臓器障害をきたして母体生命を脅かす,重篤な妊産婦救急疾患である。HELLP症候群は,全妊娠の0.5~0.9%,重症妊娠高血圧腎症の10~20%に発症する。発症時期は,70%は妊娠中(おおむね妊娠27週以降)であり,30%は産褥期(48時間以内)である。HELLP症候群を発症した妊産婦が高血圧による脳出血をきたした場合の生命予後は不良であり,母体死亡の主要な原因である。

    ▶診断のポイント

    最も重要な臨床症状は上腹部(心窩部あるいは右季肋部)痛である。嘔気や嘔吐,強い倦怠感を伴うこともある。妊産婦が上記症状を訴えて受診した場合,救急外来を担当する医師は,必ずHELLP症候群を念頭に置いて,採血によってLDH,肝酵素(ASTおよびALT),血小板数を確認せねばならない。一方,自覚症状を伴わない症例もあるため,HELLP症候群の発症リスクが高い妊娠高血圧腎症の患者にあっては,定期的に上記項目を採血でフォローしておく必要がある。

    HELLP症候群には,国際的に統一された診断基準はないものの,一般的にはLDH>600IU/L,AST>70IU/Lおよび血小板数<10万/μLを認めるときにHELLP症候群と診断される(Sibaiの基準)1)。しかし,必ずしもこれらの基準すべてを満たさない症例も多い。そのような場合,妊娠高血圧腎症に加えて肝酵素上昇(ASTあるいはALT>40IU/L)および血小板減少(<15万/μL)を満たすときにはpartial HELLP症候群と呼称する概念もある。partial HELLP症候群は時間経過に伴ってHELLP症候群に進展していく可能性が高く,適切な時間間隔で採血データを再検することが重要である。一方,溶血のマーカーであるハプトグロビンの低下はHELLP症候群の発症前にもしばしば認められるため,補助的な診断に有用と考えられる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    HELLP症候群の発症と進展は急激であり,播種性血管内凝固,急性腎不全,子癇,常位胎盤早期剝離,肺水腫,肝被膜下出血などの重篤な合併症をきたして母体(あるいは胎児)死亡の転帰をとることもある。したがって,HELLP症候群の疑いがある場合には直ちに高次医療施設へ母体搬送を行う。

    HELLP症候群の最終的かつ唯一の治療は妊娠の終了であるため,妊娠週数と重症度を考慮した上で,緊急帝王切開術を行う。加えて,硫酸マグネシウム,降圧薬,ステロイド投与による厳重な治療を行う(Mississippi protocol)2)。本法の目的は,HELLP症候群の重症化の予防,母体合併症とそれによる母体死亡の予防,HELLP症候群からの速やかな回復であり,実際,Martin JrらのHELLP症候群190例の前方視的解析では,本法による管理によって母体死亡,脳出血といった重篤な合併症を認めていない3)

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