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梅毒[私の治療]

No.4999 (2020年02月15日発行) P.44

荒川創一 (三田市民病院事業管理者・院長)

登録日: 2020-02-16

最終更新日: 2020-02-12

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  • 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum sub. pallidum)が,性交渉により皮膚や粘膜より体内に侵入し,その後血行性・リンパ行性に散布され,侵入局所および全身の各部位に症状が発現する。先天性梅毒(胎児が母体から胎盤を通して感染)とそれ以外の後天性梅毒とにわけられる。後天性梅毒は,性感染症として伝播する。治療を要する活動性梅毒(有症状の顕症梅毒と無症状の潜伏梅毒とにわかれる)と,梅毒抗体検査は陽性であるが治癒している陳旧性梅毒とに大別される。
    顕症梅毒は,感染時期から1年未満の早期梅毒とそれ以降の後期梅毒にわけられる。早期梅毒は,侵入局所で梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum:TP)が増殖して形成される症候が主の第1期と,散布臓器(皮膚・粘膜を含む)の症候が主の第2期にわけられる。後期梅毒には,感染から年余を経て臓器病変が進行した状態の第3期梅毒が含まれる。潜伏梅毒は感染初期の「真の潜伏期」以降,あらゆるフェーズでみられうる。

    ▶診断のポイント

    早期第1期梅毒と早期第2期梅毒とが,いわゆる顕症梅毒としてとらえられる一次病変と二次病変である。前者の典型が初期硬結・硬性下疳であり,多くが外性器(亀頭・冠状溝や小陰唇)にみられ,後者の典型が全身皮膚のバラ疹であるが,第2期梅毒病変は全身どの臓器にも顕れうるので,診断は必ずしも容易ではない。梅毒は典型例より非典型例のほうが多いと考えておいたほうがよい。いずれにしても,病原診断としてのPCR(polymerase chain reaction)が保険収載されていない現段階では,確定診断は血液中の梅毒抗体検査による。

    梅毒抗体検査は,保険診療の用語で言えば,梅毒血清反応(serologic test for syphilis:STS)とTP抗体の2種で,それぞれに定性および定量(半定量を含む)検査がある。STSはわが国では実際上,RPR(rapid plasma reagin)法のみが利用可能で,RPR,TP抗体とも昨今普及している自動化法(経過を追う上で,用手法より優れる)抗体検査が推奨される。

    1回の測定値のみでは断定できない場合もある。たとえば,「初期の活動性梅毒」では2種抗体とも陰性のことがあり(いわゆるウインドウピリオド),「非梅毒」での陰性に対して地と天との差であり,その鑑別を要することがありうる。感染初期には,TP抗体のほうが先に上昇する傾向にあり,RPR陰性でTP抗体のみ陽性のことが少なくない。性行為による感染の機会があり,RPR,TP抗体とも上昇し,一次病変,二次病変のいずれかが明瞭に存在すれば活動性梅毒(要治療梅毒)と診断しうるが,無症候期でも抗体検査結果で要治療梅毒と判断されれば投薬対象とする(表)。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療はペニシリンが特効薬であり,第1期,第2期梅毒に対して現時点の日本ではアモキシシリン1回500mg1日3回,4週間内服投与が基本である。同薬1回1g1日3回+プロベネシドという治療法が2週間で治療完結できる点や神経梅毒を考慮した観点から検討されている。世界標準であるPCG(ベンジルペニシリンGカリウム)徐放製剤240万単位の単回筋注療法(かつてはわが国でも認可)も,わが国でようやく再度の開発が進んでいる。

    治療方針を立てる上で,まず,的確な診断が先行されるべきことは当然である。一次病変または二次病変が存在する活動性梅毒と把握されれば,第一選択であるペニシリン投薬を開始する。効果判定は臨床所見と検査所見から慎重に行う。症状が消失することが治癒判定の前提であるが,投薬終了は,RPR自動化法数値が1/2以下に低下していることをもって判断する。

    ペニシリンアレルギーの場合,ミノサイクリンまたはドキシサイクリン1回100mg1日2回(経口)4週間投薬を基本とするが,ドキシサイクリンは日本では梅毒に適応取得がない。

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