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解離症/解離性障害[私の治療]

No.4991 (2019年12月21日発行) P.47

西松能子 (立正大学心理学部教授)

登録日: 2019-12-24

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  • 解離症/解離性障害は,意識,記憶,同一性,情動,知覚,身体表象,運動制御,行動の正常な統合における破綻/不連続である。しばしば心的外傷(心因,トラウマ)の後に生じる。解離症/解離性障害は,いずれの下位分類においても健忘を認める。記憶や意識の障害を呈する解離と,運動性の障害を示す転換(解離性運動障害)に分類される。

    ▶診断のポイント

    自伝的情報の想起困難を示すことが要件である。限局性,選択性,全般性の別はあるが,器質的でない健忘が,精神的および身体的な解離(転換)に共通する点である。解離障壁(事象の健忘の程度)には高低があり,ぼんやりと状況を想起できる場合もあるので,注意して診断する。解離症状が前景に出ており,外傷を伴っている場合はしばしば認められる。初診段階では,本人の苦痛は日常生活上の不都合な健忘であり,外傷的体験について本人自身健忘していることがしばしばある。この点に留意して診断を進めていく必要がある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    解離症/解離性障害は重症度(解離障壁の高低や病態)に大きな差があり,重症度によって適応とされる治療が異なる(表)。いずれにおいても保護的環境の構築(holding environment:抱える環境)が共通して必須である。多くは保護的環境の構築により,数カ月以内に治療終結となる。特に軽症群は安心できる保護的環境下で数日以内に回復する。難治例においては,外傷性の解離性障害(post-traumatic stress disorder:PTSD),発達障害あるいはパーソナリティ障害の合併,解離症状を伴った統合失調症や感情障害などとの鑑別を要する。いずれの場合も,解離という現症への治療的取り組みは共通している。したがって,診断面接における診立てが何より重要である。

    まず診立て,次に保護的環境を整備し,さらに,薬物療法で十分な休息を取らせ,安定を取り戻すことが必須である。この時点で改善傾向を示していれば,数週間経過を観察する。改善しない場合はさらに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin norepinephrine reuptake inhibitors:SNRI)を処方する。なお,不安が強い場合は,抗不安薬を投与する場合がある1)。解離症状消失後は,外傷的出来事(心因,トラウマ)への認知の修正が再発防止の点で重要である2)

    外傷について健忘し外傷の存在を自覚しない場合,治療が進んでいく中で健忘していた外傷について気づいていく。治療の進行に伴い,治療当初にはなかった解離が現れたり,「解離」の悪化が認められたりして,初めて外傷の存在が疑われることになる。外傷性解離においては,特に虐待などの幼少時期からの持続的外傷による複雑性PTSD(ICD-11で概念化された診断名)では,外傷自体を健忘していることがしばしばある。治療は外傷的出来事に近づき,気づき,処理していく過程であるが,接近に伴い臨床症状が一時的に悪化する。詳細に症状を探索し,外傷を確認していく過程で外傷がさらに出現したり,臨床症状が重篤化したりすることがある。また,外傷的出来事に近づくことを拒否されることがある。その場合は当初に戻り,安全感,「抱える環境」を提供する。「安全な場」のイメージを繰り返し共有し,安全を保証し,薬物療法を併用していく。

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