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ハンチントン病[私の治療]

No.4984 (2019年11月02日発行) P.39

岩田 淳 (東京大学大学院医学系研究科神経内科学准教授)

登録日: 2019-11-03

最終更新日: 2019-11-01

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  • (IT5)HTT遺伝子中にあるCAGリピート配列の伸長によって生じる常染色体優性遺伝疾患である。一般的には中年期以降に発症する。リピート数は40以上で発症するが,36~40の間の場合は発症は不確定である。わが国の有病率は100万人当たり7人程度である。リピート数が多いほど若年で発症し,また重症化する。特に父親から遺伝する場合にリピート数が伸長しやすい。典型的な四肢,顔面の舞踏運動は当初は目立たず,「落ちつきがない」程度の変化としてとらえられることが多い。運動症状以上に患者の生活を障害するのが注意力低下,うつといった精神症状である。また,小児期に発症する場合は舞踏運動がなく,精神症状が目立ったり,ジストニアや小脳症状が目立ったりする場合が多い。緩徐進行性であり,発症から10~15年で全介助となる可能性がある。

    ▶診断のポイント

    常染色体優性遺伝の家族歴を有することが診断のポイントとなるが,時に家族歴が目立たない場合もある。特に父から遺伝する場合には,発症年齢が早期化する場合があることに注意が必要である。典型的には緩徐進行性の舞踏運動,性格変化,認知機能低下を認める場合に家族歴を確認して本疾患を疑い,前述の遺伝子検査を施行することで診断する。

    鑑別疾患としては糖尿病性舞踏病(急性発症で片側性),脳血管障害による舞踏病(急性発症で片側性),妊娠性舞踏病,小舞踏病(リウマチ熱)が後天性疾患では重要である。一方,変性疾患としては歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubral pallidoluysian atrophy:DRPLA),脊髄小脳失調症17型(spinocerebellar ataxia type 17:SCA-17),ハンチントン類縁疾患2型(Huntington’s disease-like 2:HDL2),有棘赤血球症を伴う舞踏病などがあるが,いずれも遺伝子診断によって鑑別する。脳の画像検査では尾状核頭の萎縮が特徴的であるが,水平断より冠状断のほうが萎縮の程度は検出しやすい。家系内未発症者に対する発症前診断は理論的には可能であるが,専門家による十分な遺伝カウンセリングを施行する必要があり,決して安易に行ってはならない。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    根本治療はないため,対症療法と支持的療法が主体となる。

    【運動症状の治療】

    治療の対象となるのは舞踏運動であり,第一選択はドパミン枯渇を主たる作用とするテトラベナジンである。緩徐に十分量まで増量しても効果が不十分であり,忍容性が保たれている場合には定型抗精神病薬の抗ドパミン作用を利用する。こちらも緩徐に増量し,忍容性を確かめることが重要である。これらの薬剤に共通している,副作用の傾眠,パーキンソニズムには注意が必要である。

    【精神症状の治療】

    精神症状の主体は,自殺念慮などを含むうつ状態であるが,典型的なうつ病とは異なり,自責の念や絶望感には欠けることが多く,注意を要する。自ら言葉にすることは少なくても実際に質問してみると自殺念慮が強い場合が多く,自殺企図も多くみられるため,質問状況に注意しながらであるが,絶えず気を配っておくことが重要である。抑うつには選択的セロトニン再取込み阻害薬が第一選択であり,易刺激性や興奮には非定型抗精神病薬,気分障害にはバルプロ酸,カルバマゼピンを使用する。

    【栄養の管理】

    もともとの舞踏運動が強い場合には消耗が激しく,カロリー不足となりやすい。また,進行して嚥下障害が出現した場合には経口摂取能力も著しく低下する。体重の過度な減量をもたらさないように早期より舞踏運動の軽減を図りつつ,カロリー摂取を積極的に行うべきである。

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