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卵巣腫瘍[私の治療]

No.4984 (2019年11月02日発行) P.45

髙橋可菜子 (山形大学医学部産科婦人科学講座)

永瀬 智 (山形大学医学部産科婦人科学講座教授)

登録日: 2019-10-31

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  • 卵巣には多種多様な腫瘍が発生し,その病理学的所見は複雑かつ多彩である。
    卵巣腫瘍は組織発生的に上皮性腫瘍,性索間質性腫瘍,胚細胞腫瘍に大別される。また,その悪性度からそれぞれ良性,境界悪性,悪性に分類される1)。卵巣腫瘍の中で最も発生頻度が高いものは良性の漿液性囊胞腺腫である。卵巣腫瘍の約10%は悪性腫瘍であり,全悪性卵巣腫瘍の約90%は上皮性で,卵巣癌の約5%は他臓器がんの転移性,また,5~10%は遺伝性である。卵巣癌の早期発見の試みが行われてきたが,超音波断層法検査や腫瘍マーカーによるスクリーニングの有用性は確立されておらず,約半数がⅢ・Ⅳ期で発見される。

    ▶診断のポイント

    卵巣腫瘍は特徴的な症状に乏しく無症状であることが多いため,腹部超音波断層法検査などで偶発的に発見されることも多い。骨盤内に腫瘤性病変を認める場合は卵巣腫瘍を疑う必要がある。骨盤腔を超えるサイズでは腹部膨満をきたしうる。性器出血や男性化徴候を認める症例では,腫瘍がホルモンを産生している場合がある。また,腫瘍の茎捻転・破裂により急性腹症を呈することがある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    腫瘍の長径が6cm以下の良性と考えられる卵巣腫瘍の場合は経過観察可能である。境界悪性や悪性が疑われる場合には,術中病理組織検査を行うことのできる高次医療機関での治療が望ましい。最終的な良悪性の診断は術後の病理組織学的検査による。悪性であった場合は,組織型とその分化度,病期を確認し,適切な抗癌化学療法を行うことが標準的な治療である。

    【卵巣腫瘍の診断と良悪性の評価】

    卵巣腫瘍の存在が疑われた場合,腹部の触診と内診で腫瘍の大きさ,硬度,表面の性状や可動性を評価する。

    超音波像で悪性を疑わせる所見は,充実性構造,腫瘤壁から突出する乳頭状構造,充実成分と囊胞成分の混在などがある。カラー・パルスドップラー法を併用すると,悪性群で隔壁・充実部に血流描出率が高い。生理的範囲を逸脱した腹水貯留やダグラス窩の播種結節の存在は悪性を示唆する所見である。

    骨盤内臓器である子宮や卵巣に対しては,CT検査よりもMRIが優れており,腫瘍の性状,良悪性を推定する上で,MRIは非常に有用である。T1およびT2増強画像に加えて,造影MRIを行うと,よりいっそう良悪性の診断がつけやすくなる。また,拡散強調像では悪性腫瘍のような細胞密度の高い組織は高信号を呈するため,診断の一助となる。MRIで悪性を疑わせる所見として,囊胞部分と充実成分の混在,隔壁の不規則な肥厚,隔壁内の結節の存在,内部構造の不均一な造影効果の存在,などが挙げられる。

    悪性腫瘍が疑われる場合には造影CT検査で全身的な検索を行い,リンパ節腫脹や遠隔転移の有無を評価する。PET-CT検査も良悪性の鑑別や全身検索に有用である。
    腫瘍マーカーとしてCA125やCA19-9,CEAなどが測定されることが多いが,月経や子宮内膜症などによる偽陽性例もあるため,画像診断など他の検査と併せて総合的に判断する。

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