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学習障害(LD)・限局性学習症(SLD)[私の治療]

No.4978 (2019年09月21日発行) P.49

稲垣真澄 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長)

加賀佳美 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部知的障害研究室室長)

登録日: 2019-09-18

最終更新日: 2019-09-17

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  • 学習障害(learning disorder:LD)は最新の「DSM-5精神疾患の分類と診断の手引」では,限局性学習症/限局性学習障害(specific learning disorder:SLD)と称される。全般的知的能力が平均域以上であり,学習環境に問題がないのにもかかわらず,読字,書字,計算,数的概念など,特定の領域における学習の習得困難を示す。読字障害(発達性ディスレクシア,発達性読み書き障害),書字障害,算数障害等に分類される。

    ▶診断のポイント

    知能が平均域以上にもかかわらず,特定の領域での学習の習得が学年相当ではない状態を診断する。

    読字障害を呈する例が最も多く,読みの正確性,流暢性(速度)に問題を認める。通常,読字だけでなく書字障害も伴う。病態生理としては言語の音韻障害が主たる原因と考えられている。音韻障害とは音(音素・モーラ)の認識と分割に困難があり,文字(綴り字)との対応づけを習得できない状態と考えられており,左側頭・頭頂移行部の機能異常とされる。

    書字障害は読みに異常はなく,日本語話者では漢字書字でつまずくことが多い。綴り字の正確さ,文法や句読点の正確さ,文章の構成能力などに遅れを認める。漢字の書字困難は日本語特有であり,アルファベット圏と別の病態の可能性がある。漢字書字困難のタイプには視覚記銘力困難,図形構成力困難,書字の継次処理困難,不器用,持続的注意の困難,などがある。

    算数障害は,特に算数の習得で必要な計算,図形や空間の認知,算数的推論などに支障をきたす状態である。読字障害に合併することが多い。基本的に2学年以上の遅れがある場合に診断されているが,慎重な経過観察が必要なケースもある。

    学習障害児では注意欠如・多動症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)や自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)の併存も多い。特にADHDは不注意優性タイプもあり,併存に気づかれないこともある。また,学習困難による学校での不適切な対応や失敗体験のため自尊感情が低下し,抑うつや不安症など二次障害を起こしやすく,不登校をきたすこともある。また,発達性協調運動障害(developmental coordination disorder:DCD)の併存も多い。

    【検査所見】

    知的障害の除外が必要で,知能検査は必須となる。小中学生はWISC-Ⅳ知能検査が用いられることが多い。学習の習得度の判定には,Kaufman Assessment Battery for Children第2版(日本版KABC-Ⅱ)のことばの読み,書き,文の理解,算数の到達度などがよい。読み障害の判定は「特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン」のひらがな音読検査,改訂版標準読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)などがある。知的能力が平均域以上で,読みの正確性,速度などの異常があるときは読字障害を疑う。また,算数障害の検査バッテリーも開発されつつある。総合的な診断が重要で,ADHD,ASD,DCDの併存,抑うつ,不安症などの合併症の有無についても検討が必要である。

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