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中枢性尿崩症[私の治療]

No.4973 (2019年08月17日発行) P.48

岩﨑泰正 (高知大学臨床医学部門教授・保健管理センター所長)

登録日: 2019-08-17

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  • 抗利尿ホルモン(バゾプレシン)の欠乏による尿濃縮障害から多尿・多飲をきたす疾患である。基礎疾患に起因する続発性,原因の不明な特発性,ならびにバゾプレシン遺伝子異常による家族性に大別される。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    口渇,多飲,低張多尿(1日尿量3L以上)を呈し,比較的急性に発症することが多い。幼少時から症状を認める場合は遺伝性腎性尿崩症を,小児・思春期に多尿が徐々に顕性化する場合はバゾプレシン遺伝子異常に起因する家族性中枢性尿崩症を疑う。尿量の日差変動が多い場合,昼間は多尿でも夜間尿の頻度が少ない場合,精神疾患を合併する場合は,心因性多飲症の可能性を考慮し,鑑別診断を行う必要がある。

    【検査所見】

    まず,浸透圧利尿による多尿(糖尿病など)を除外する。引き続き低張多尿(尿浸透圧300mOsm/kg以下)の存在から本疾患を疑い,5%高張食塩水試験の際の血中バゾプレシン分泌反応欠如に基づいて診断を確定する。また,並行して下垂体MRI検査を施行し,基礎疾患となりうる間脳下垂体領域の器質的病変の有無を検索する。MRI検査のT1強調画像における下垂体後葉高信号の消失は,中枢性尿崩症診断の有力な手掛かりとなる。また,腎性尿崩症との鑑別を目的としてバゾプレシン負荷試験を行い,負荷後の尿浸透圧上昇を確認する。水制限試験は苦痛が大きいため,必要な場合のみ実施する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    基礎疾患(間脳下垂体領域の腫瘍,リンパ球性漏斗下垂体後葉炎やIgG4関連疾患などの炎症,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症などの肉芽腫など)が存在すれば,それに対する治療を開始する。家族性中枢性尿崩症が疑われる場合は遺伝子解析を行う。

    上記と並行して,尿崩症の多尿に対する治療を開始する。治療薬としてデスモプレシン経口薬(ミニリンメルト®)または点鼻薬(デスモプレシン®スプレー,液体)のいずれかを選択し,原則として1日2回(朝・夕)使用する。1日3回以上使用すると,自由水の排出が1日中阻害されるため,急性の多飲時に水分が貯留し,低ナトリウム(Na)血症をきたしやすくなる。このため,1日2回までの投与にとどめ薬効が消失する期間を短時間設けることにより,過剰な水貯留の排出時間を確保することが望ましい。デスモプレシンは作用時間が長いため,周術期など体液調節が変動しやすい状況で使用すると,輸液等による短時間の水負荷への適応が困難となる。このため,血中半減期が数十分と短いピトレシン®の経静脈的投与法を選択し,時間尿量と血清Na値を指標としながら水バランスを調節し,血漿浸透圧の恒常性を保つように留意する。

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