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情緒的反応への応答(2)[末期がん患者・家族とのコミュニケーション技法(5) 実践編]

No.4734 (2015年01月17日発行) P.48

梁 勝則 (林山クリニック希望の家院長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-15

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  • 1. 否認・信じられないという気持ちに対する応答

    1 否認(自分の病状を認めない)

    たとえば余命1カ月未満が予測される患者から来年の旅行計画について話を持ちかけられたりして,医師を面食らわせたり幾分苛立たせたりするかもしれない。しかし,本来否認は耐えがたい極限状態に直面した人の正常な心理学的防衛機制であり,否認することによって心の均衡を保とうとする防衛反応である。

    患者との信頼関係を断ち切りたくなければ,患者がありえない希望や期待を口にしても,医師はそれを非言語的態度,たとえば顔をしかめたり,冷笑したり,首を横に振るなども含めて,否定しないことが望ましい。否定的な表情をすることなく「そうですね~,そうなるとよいですね~」と共感するか,笑顔で黙ってうなずくことを勧める。

    否認の本質は悪い知らせを受け入れることへの拒絶であり,悪い知らせは真実ではないという患者の偽らざる願いを表現している。終末期にもしばしば経験するが,ほとんどの場合,身体状況の悪化とともに潜在意識,あるいは言葉によって表現されない顕在意識の中で受容プロセスも進展しているので,実地臨床上は否認のために医師が困ることは少ない。つまり,不思議に感じるかもしれないが,否認と受容は終末期において同時にその人の中にしばしば存在している。

    そもそも,そのような患者・家族の多くは,最期まであきらめずに免疫療法などの非証明医療や民間療法に一縷の望みを託しているので,我々医療者の前に現れたとしても,否認のはけ口を持っているのであろう。

    余命半年以内と思われる患者「来年の春には体力を取り戻して復職したいのです。行けますよね?」

    (有効でない)説得的応答「ちょっと無理ですね~」「むしろ残務整理をお勧めします」「いつ何があるか,未来は予測できません。できることは今のうちにしておきましょう」「今のうちに思い出づくりをして下さい」「多分,大丈夫だと思います(過度な保証)」

    閉じられた質問‌「本当にそれが可能だと思っているのですか?」→敵対関係をつくりがちである

    繰り返し「また元気になって仕事に復帰したいのですね」

    共感的な応答「‌あなたの最大の望みは仕事に復帰できるまで元気になりたいということなのですね」

    開かれた質問「‌もし万が一,来年の春までに復職することがかなわなければ,あなたはどう感じるのか,教えて頂けませんか?」「復職するということは,あなたの人生にとってどのような(意味を持つ)ことなのか,よろしければ教えて頂けませんか?」(表1)

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