浸潤性膵管癌(PDAC)は,消化器癌の中で最も予後不良で,わが国でも罹患率,死亡率ともに上昇している。PDACに対する唯一の根治法は外科的切除であるが,治癒切除可能な段階で診断されるものは全体の20%に満たないと言われている1)。
近年,FOLFIRINOX療法やGEM+nab–PTX療法など強力な化学療法がわが国でも保険収載され,生存期間の延長とともに,化学療法の効果で切除可能となった症例の報告がなされるようになった。
Satoiらは日本肝胆膵外科学会プロジェクト研究の多施設共同研究で,conversion surgery(CS)群は化学療法単独群と比して有意に生存期間の延長を認めたと報告している(生存期間中央値:CS群39.7カ月 vs. 化学療法群20.8カ月,P<0.001)。また,化学療法継続期間が240日以上の症例群は,それ以下の症例群より有意に生存期間の延長を認めたとも報告している2)。WilliamsらはCSにおいて,化学療法継続期間6カ月以上の症例群のほうが生存期間が有意に良好であったと報告している一方,化学療法の効果によりCA19-9が正常化した症例は,化学療法継続期間が6カ月未満でも生存期間が良好であったと報告している3)。
PDACに対するCSは議論の余地がある治療法ではあるが,生存期間の延長に寄与する可能性が示唆されている。症例を集積し,さらなる検討の上,適応を決定していくことが重要である。
【文献】
1) Hidalgo M:N Engl J Med. 2010;362(17):1605-17.
2) Satoi S, et al:J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2013;20(6):590-600.
3) Williams JL, et al:J Gastrointest Surg. 2016;20 (7):1331-42.
【解説】
松木亮太 杏林大学消化器・一般外科