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“支える人を支える” メンタルヘルスケアの再認識を[お茶の水だより]

No.4690 (2014年03月15日発行) P.17

登録日: 2014-03-15

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▶東日本大震災3周年を前日に控えた10日、安倍晋三首相は官邸で臨時記者会見を開いた。その冒頭発言で首相は避難生活を続ける人々の精神的負担に触れ、「ハード面のみならず心の復興にも一層力を入れていく」と語った。
▶首相が「心の復興」に向けた政府挙げての取り組みとして掲げたのが、保健医療従事者を避難所・仮設住宅へ定期的に派遣し、悉皆訪問させる計画だ。首相はこれを「人海保健指導」と呼んでおり、全国から人員を招集・確保し、数の力で被災者のメンタルヘルスケアの充実を図る考えを示している。
▶避難所生活を送る被災者の精神的負担の大きさは言うまでもない。下瀬川徹東北大大学院教授らの研究班が2月に発表した調査結果では、避難所生活という環境要因によって出血を伴う消化性潰瘍の発症リスクが2.2倍に上昇することが判明しており、避難ストレスが及ぼす影響は精神面だけにとどまらないことが示唆されている。被災地は東北沿岸を中心に広範にわたり、重篤な疾患を予防するためにも、支援者の数が多いに越したことはない。
▶ただし、大きなストレスを受けるのは被災者を支援する側も同じである。重村淳防衛医大教授は、自衛隊、消防、警察、医師、看護師、自治体職員など被災者の支援に当たる者は社会的責任の大きさから自身の葛藤を表出しにくく、ストレスが巨大化・複雑化しやすいと指摘している。保健指導を人海戦術で行うならば、心身に不調を来す支援者も増加することが懸念される。
▶メンタルヘルスケアの質を一定水準以上に保つ工夫も必要だ。1995年の阪神・淡路大震災では、神戸市長田区の火災による被害拡大に注目が集まり、全国から精神保健指導を志願する保健師が駆けつけたが、経験が浅い者も多く、その教育やメンタルヘルスケアに労力が割かれた。こうした事態を招かないためにも、精神科医などを中心に支援者のメンタルヘルスを支える体制を同時に確保する必要がある。
▶今年に入って、厚生労働省が各都道府県の災害派遣精神医療チーム(DPAT)を対象に大地震を想定した研修を開始するなど、発災直後の精神保健体制については構築が進んでいる。次は発災から時間が経過した後の体制だ。“支える人を支える”メンタルヘルスケアの重要性を再認識し、被災地全体のメンタルヘルスケアの質向上につなげたい。

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