【Q】
大腸手術において術後の感染性合併症を減少させる目的で行われるbowel preparation(BP)には下剤,浣腸,腸洗浄,機械的腸管洗浄(ニフレック,マグコロールなど),非吸収性抗菌薬投与などがありますが,現在,成人の大腸手術では,メタアナリシスによるエビデンスに基づいたBPとして,非吸収性抗菌薬投与単独あるいは非吸収性抗菌薬投与+機械的腸管洗浄の2つが推奨されています。一方,小児外科領域ではエビデンスに基づいた報告や指針がないため,成人に準じて各施設がまちまちに行っているのが実情だと思います。そこで,小児大腸手術〔Hirschsprung(H)病根治術,人工肛門のない鎖肛手術,人工肛門閉鎖術〕で実際に行っているBPの具体的方法とその意義(小児と成人は同じでよいか)について,順天堂大学・山高篤行先生のご教示をお願いします。
【質問者】
石橋広樹:徳島大学病院小児外科・小児内視鏡外科教授
【A】
成人領域では,大腸手術におけるBPに関するmeta-analysis trialで非吸収性抗菌薬の内服+機械的腸管洗浄(ニフレックR,マグコロールRなど)が,機械的腸管洗浄のみと比較して有意に合併症率を減少させたという報告があります(文献1,2)。一方,小児領域では非吸収性抗菌薬の内服+機械的腸管洗浄が推奨されていますが(文献3),非吸収性抗菌薬の内服の有無によって術後の感染合併率に有意差はないとされています(文献4)。しかし,この報告はprospective studyもしくはmeta-analysisではありません。
興味深いことに腸内細菌の菌種や濃度に関して,乳児と成人とでほぼ同様の腸内細菌叢が構成されているとの報告があることから(文献5),当科では,成人の上記meta-analysisに則り,非吸収性抗菌薬(カナマイシン)内服+機械的腸管洗浄を施行し,さらに徹底的に術後創部感染を予防するために洗腸も追加しています。H病では腸管免疫力が低下しbacterial translocationを起こしやすいことも,洗腸を行う理由のひとつです。
手術直前,手術室でBPが不十分と判断された場合には(肛門よりtubeを挿入し確認する)手術を延期します。家族には,術直前の中止の可能性を事前に説明しておきます。腹腔鏡手術例では,経鼻胃管を術前日より挿入し,胃内容を持続吸引して減圧を図り,手術中に良好な視野を得られるようにしています。
当科のH病根治術,人工肛門のない鎖肛手術,人工肛門閉鎖術のBPを表1に示します。
1) Englesbe MJ, et al:Ann Surg. 2010;252(3):514-9.
2) Cannon JA, et al:Dis Colon Rectum. 2012;55(11):1160-6.
3) Pennington EC, et al:J Pediatr Surg. 2014;49(6):1030-5.
4) Breckler FD, et al:J Pediatr Surg. 2010;45(7):1509-13.
5) Palmer C, et al:PLoS Biol. 2007;5(7):e177.