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高血圧網膜症[私の治療]

No.5123 (2022年07月02日発行) P.44

江内田 寛 (佐賀大学医学部眼科学講座教授)

登録日: 2022-07-04

最終更新日: 2022-06-29

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  • 高血圧症によって生じる網膜血管の変化は,その多くが血管壁の形態変化が主体であり,通常無症状であることが多い。ところが,それを放置し重症化した場合は,網膜に出血,浮腫や虚血などを生じること(高血圧性網膜症)で視機能に大きく影響する場合があるだけでなく,生命予後に関わる重篤な循環器疾患を合併することもある。
    網膜血管の変化を眼底検査により評価することで,悪性高血圧,虚血性心疾患,脳血管障害や腎障害など,循環器疾患のリスクや変化を類推することが可能となる。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    多くの場合は,本態性高血圧症に伴う血管壁の変化が主体であるため無症状である。ところが,二次性高血圧症などにより急速に重症化し高血圧性網膜症を生じた場合は,網膜循環不全による虚血や滲出性変化を生じ,それが黄斑に及べば著しい視力低下をきたすことがある。さらに,脳心血管などの重篤な循環器合併症を生じるリスクが上昇するため,注意を要する。

    【検査所見】

    通常の眼底検査や眼底写真から,血管壁の変化の程度や出血,白斑や乳頭浮腫などの観察が可能である。しかし,虚血や滲出性変化による網膜浮腫などの評価は眼底検査だけでは不十分であり,眼科での蛍光眼底検査(FA)や光干渉断層計(OCT)などを用いた評価が必要となることもある。

    網膜血管の高血圧症による変化は,可逆的な血管攣縮性変化と不可逆的な硬化性変化に分類することができる。高血圧症の90%程度を占める本態性高血圧症による網膜血管の変化は硬化性変化が主体となり,10%程度に生じる腎性高血圧や妊娠高血圧症候群などの二次性高血圧症による急激な血圧上昇では,血管攣縮性変化を生じることが多い。

    〈高血圧性(血管攣縮性)変化〉

    中膜平滑筋の機能的収縮が生じると細動脈の狭小化や,急激かつ高度な高血圧症により口径不同が生じる。さらに,それらの変化が高度になると網膜循環不全が生じ,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,網膜浮腫や乳頭浮腫などを生じる。また,著しく高度な高血圧状態では脈絡膜の循環障害を伴うこともあり,これらの評価にはFAやOCTを適宜用いて行うことが重要である。硬化性変化に比べ比較的短期間に生じる変化であるが,臨床上重要な所見が多い。

    また,これらのうち高度な変化は腎性高血圧や妊娠高血圧症候群などでみられることが多いため,治療介入の指標として重要である。

    〈硬化性変化〉

    硬化性変化の本体は,細動脈の動脈壁の平滑筋細胞の変性と,細網線維や膠原線維などの増加に伴う線維性肥厚による血管内腔の器質的狭窄であり,不可逆性の変化である。そのため,血柱反射の亢進や動静脈の交叉現象が生じ,その変化が高度になると銅線動脈や銀線動脈として観察される。これらの変化は高血圧症だけではなく糖尿病,脂質異常症や肥満でも生じる。

    上記2種類の変化は,それぞれScheie分類でその程度により記載されており理解しやすい(表1)。血管そのものの変化としてはKeith-Wagener分類で分類されている。近年では,これら従来の分類に加え,眼底所見の程度を循環器疾患の発症の危険と対応させたWong-Mitchell分類が新しい指標として用いられるようになった。そのため,現在の特定健診ではWong-Mitchell分類を軸に,循環器疾患発症リスクと,従来の2種類の分類を対応させて診断を行うようになった(表2)。

     

    なお,上記の所見の一部は糖尿病網膜症でもみられることがあり,特に高血圧症を合併する糖尿病の患者の眼底を診断する際には注意を要する。

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