株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「いまこそ国を挙げた感染症対策組織の創設を」尾﨑治夫

No.5094 (2021年12月11日発行) P.63

尾﨑治夫 (公益社団法人東京都医師会会長)

登録日: 2021-12-01

最終更新日: 2021-12-01

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

はっきりした理由もわからずに、激減が続いている新型コロナウイルス感染者。第6波が来た時の備えを十分にして、3回目のワクチン接種を粛々として進める。そして、いくつかの重症化予防の経口薬が使えるようになることでうまく乗り切り、インフルエンザ並みの感染症となっていくのでは、と期待している。これが私を含め、多くの関係者の期待感ではないだろうか。

しかし、欧米では現在大きな波に見舞われており、再びロックダウンをする国も出てきている。こういう時に、「日本のように、こうした対策を実行すれば、感染者は減るのですよ」と客観的なデータを示して説明することが日本の政府やアカデミアの方々にできるのか、私には現在も明確な答えが出てきていないように思う。

振り返ると、第1波の頃から先を見据えた新型コロナ対策を先手を打って国が示したことはなかったように思うし、緊急事態宣言も感染者がピークを越えている時期に出されていたことが少なくなかった。また、アカデミアの方からの積極的な発言も少なかったように思う。

これまでの、都道府県知事をはじめとする現場の行政と、医療体制を支える献身的な臨床現場の医療従事者の努力。そしてマスクをはじめとする感染防御対策をしっかりとりながら、自ら3密を避ける行動制限をした国民の努力。欧米に数カ月遅れるものの、接種する側、接種される側のこれまた多くの人々の努力によって、デルタ株に見舞われる中でも、ほぼ直線的に伸び、今やG7の中でもトップになったワクチン接種率。こうした要因に何らかの日本特有のプラスアルファが重なって、今回の激減に繋がったと思われるのである。

しかしながら、そのプラスアルファがはっきりしない。

人、動物、環境の衛生に関わる者が連携して動物由来感染症の対策に取り組むワンヘルスの概念が強調されてきているように、地球規模の自然破壊が止まらない今、パンデミックがまた近いうちに必ずやってくるであろう。その時も、政府は主導的役割を果たさずに、アカデミアも沈黙を続けるのであろうか。

「日本版CDC」や、岸田首相が自民党総裁選で提言し、いつの間にか消えてしまった「健康危機管理庁」。名称はどうであれ、政治家と科学者が一体となって、プラスアルファが解明できるような力を持った、日本の感染症対策をリードしていく組織を、こうした余裕がある時期にぜひ創設して将来に備えてほしいものである。

尾﨑治夫(公益社団法人東京都医師会会長)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top