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【識者の眼】「自然科学と人間」野村幸世

No.5089 (2021年11月06日発行) P.52

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2021-10-27

最終更新日: 2021-10-27

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昨今、新型コロナウイルス患者の発症者数は急激に減少しつつある。非常に喜ばしいことであるが、この時点でのこの減少を予知できた人はあまりいないのではないか。私も、いくらワクチンの接種率が徐々に上がっているとしても、急に発症者数が減少することはまったく予想していなかった。

この予想できない、人智を超えたものが偉大なる自然なのではないかと思う。人間は自然が創造した生物のひとつであり、自然の掌上で右往左往しているだけなのかもしれない。しかし、だから自然科学が虚しいものであるとは思わない。自然は決してすべてが支配できるものではなく、凌駕できるものでもないかもしれないが、その自然を少しでも知り、よりよく生きようとするのが自然科学である。

医学も、もちろんその1つである。新型コロナウイルスが流行し、罹患して亡くなられた方もいる。それを救うことはできなかったかもしれないが、ワクチンを開発した人がおり、これにより流行が抑えられた部分もある。また、治療薬を開発し、これにより命が救われた人もいる。これは、人類として素晴らしいことと思い、讃えるべきことであると思う。

自然科学を推し進める上で、経験的手法と演繹的手法がある、と日頃、考えている。どちらがいい、ということではなく、この使いわけが大切であると思う。「今までこれでうまくやってきたのだから、それでいい」ではなく、常に、現状に疑問を持ち、より良くしていくにはどうするのが良いか考えていくことが人間から見た自然科学のひとつである。これには、いろいろな考えの人間の叡智を生かすことが必要であることは論を俟たない。自分とは異なる環境で育った人間ともその意見を尊重し合い、十分に話し合いができ、人間の権利を尊重できるストレスの少ない社会になるといいと思う。

現在、衆議院議員選挙が行われようとしている。多様性を認め合う社会が謳われている政党が多いところは評価できると思う。どうか、単なる「豊かさ」ではなく、心の満足度の高い豊かさを拡げられる国になってほしいと思う。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[新型コロナウイルス感染症]

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