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【識者の眼】「三兎を追うもの一兎も得ず」武久洋三

No.5063 (2021年05月08日発行) P.96

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2021-04-13

最終更新日: 2021-04-13

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「二兎を追うもの一兎も得ず」という諺があることは衆知のことです。本格的な新型コロナウイルス旋風が第3波まで吹き荒れて、現在、第4波かと言われる状況にあることは、医療界に身を置くものとして心配しています。当然国も「新型コロナウイルスの流行を防ぎたい」ということが第一義かと思っていたのですが、これまでの経緯を見てみると、経済の疲弊を防ぐのだということで景気が落ち込まないように必死です。また、昨年延期されたオリンピックを今年の夏には絶対に開催するのだと新体制で意気込んでいるのです。

政権からは、世界に比べてまだ流行がそう大きくない日本で、世界に対して約束したオリンピックを必ず開催したいという強い意志が感じられます。また経済復興のためには緊急事態宣言を1日も早く解除したいという思いもあり、2021年2月28日に関東の一部を除いて解除しました。新型コロナウイルスは人間に感染し、人間と共に移動し、他の人間に広がっていくものですから、緊急事態宣言を解除し、自由に移動してくださいということになればどうなるかはもう既にこの1年間で何度か経験していることなのに、また規制を緩めているのです。オリンピック開催にしゃかりきで聖火リレーも始まっています。

「新型コロナウイルスの感染防止」と「経済復興」と「オリンピック開催」、この3つの兎を追っているのに緊急事態宣言を2021年3月21日に全ての地域で解除したのです。するとこの約3週間で各地の変異ウイルスの影響も伴い、全国でものすごい勢いでPCR陽性者が急増しています。政府は緊急事態宣言を解除したまま、「まん延防止等重点措置」という新しい縛りを作りました。これは知事が都道府県より狭い範囲の市町村や一部地域を指定し、当該地域の規制を可能にするものですが、どうみても対策は緊急事態宣言と同じものです。こんなことなら緊急事態宣言を続けておくべきだったとほとんどの国民が感じているでしょう。

規制を緩めて国民が動けばウイルスも人間と共に動くことが痛いほど分かっているのに、また緩めてしまう。また感染が拡大すればとてもじゃないですがオリンピックなんて開催できません。この国は三匹の兎のうち、何を一番に得たいのでしょうか。教えて下さい。

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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