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小児肘内障[私の治療]

No.5046 (2021年01月09日発行) P.43

関 敦仁 (国立成育医療研究センター整形外科診療部長)

登録日: 2021-01-11

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  • 不意に手を引っ張られた後に,幼児が腕を痛がり肩を挙上しなくなることがある。これが典型的な肘内障で1~4歳に多くみられる。不意に手を引っ張られると,肘周囲の筋の随意収縮が働かないため,橈骨は瞬間的に遠位に移動して輪状靱帯から橈骨頭が滑脱する。そこで外力がなくなると,橈骨は周囲軟部組織に引き戻されて近位に移動し,輪状靱帯前方部は腕頭関節間に嵌頓した状態になる。幼児は肘に痛みと強い違和感を覚えて,動かそうとしなくなる。

    ▶診断のポイント

    幼児が腕を動かそうと(肩の挙上と肘の屈曲を)しなくなった場合,問診により受傷機転を確認することが重要である。引っ張られて発症したことが明らかであれば確定診断でき,整復操作を開始できる。牽引以外や受傷機転が判然としない場合は,単純X線写真で骨折がないことを確認する。その後に愛護的に整復操作を試みて,クリックとともに整復されて自動挙上できるようになると肘内障であったことがわかる。

    ▶私の治療方針

    小児救急の現場では,単に手を引っ張られて発症する以外に,転倒や寝返りといった受傷機転もみられる。単純X線所見で転位像や骨折線がなく,posterior fat pad sign(肘側面像で脂肪組織を示す透亮像が関節後方や骨皮質後方に張り出す,関節内骨折の徴候)もなければ肘内障を疑い,愛護的な操作で徒手整復を試みる。超音波検査が可能であれば,輪状靱帯の嵌頓像を観察する。その際に,輪状靱帯そのものよりもそれに連続している回外筋の移動像(J sign)を左右で比較して観察するのが認識しやすい。不全骨折による骨膜下血腫の有無もみておく。ただし,いずれも超音波検査手技に日常診療から慣れておく必要がある。

    超音波検査においては,肘を軽度屈曲位に保ち,橈骨頭の前方からプローブを当てて観察する。正常では輪状靱帯が帯状高エコー像として観察されるが,肘内障の場合は輪状靱帯が橈骨頭の前方に見えなくなる。輪状靱帯が回外筋とともに小頭-橈骨頭間に引き込まれる結果,腕頭関節前方に厚い高エコー像がみられる。関節内の貯留液が低エコー像なら水腫であり,肘内障の整復後像と判断できるが,高エコー像の場合は血腫であり,関節内骨折を疑う。

    診断が確実となれば,筆者は回外法を好んでいる。患者を座らせて前腕を回外位に保ち,肘の屈曲と伸展を1往復する。これだけでクリックとともに整復されることが多いが,変化がなければ1度回内位として屈伸を1往復した後に,再度回外位にして肘を屈曲させて整復する。回内法は,回筋が輪状靱帯に連続していることを利用して肘屈曲位で他動回内を強制することにより,回外筋が輪状靱帯を引き出して整復するものである。

    【家族へのアドバイス】

    一度肘内障になると靱帯や軟部組織が緩くなり,その後しばらくは再発しやすくなるため,注意が必要である。子どもの手をつかんで体を引っ張り上げたり,振り子のように揺すったりしてはいけないことを説明する。

    【診断に難渋した症例からの教訓】

    ①父親が3歳女児の手を引っ張り上げたあと右肘に強い痛みが出て動かさなくなった。画像では骨折はないものの関節水腫があり,軽度の肘関節伸展制限もみられた。整復操作を行ったが奏効せず,後に若年性特発性関節炎(JIA)であることがわかった。牽引時の痛みで発覚したJIA症例。

    ②9歳女児がキックボクシングの練習後,グローブを外そうと強く腕を振ったところ肘が痛くなったとの訴えがあった。当初,肘の靱帯損傷を疑っていたが,数日後の受診の際に,両足でグローブを挟み,膝を力強く伸ばしてグローブを外そうとしたことが原因とわかった。超音波でJ signを確認して整復操作を行い,完治した。9歳でも肘内障は起こりうる。

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