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【識者の眼】「高齢者のうつ病は薬物療法が不可欠」上田 諭

No.5036 (2020年10月31日発行) P.56

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2020-10-06

最終更新日: 2020-10-06

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うつになる原因について、誤解が多い。とくに高齢者でそうである。加齢で弱った心身のうえに、人との別れ(死別を含む)や家族からの孤立、身体のさまざまな病気の悩みでうつが起きると一般には思われているようだ。実は、そういう例は少ない。多いのは、風邪のような軽い病気や小さなけがの後、または身体の病気で手術や入院をして無事退院した後、友人・家族とのささいな言葉の行き違い、などである。重大なストレスを生むようなことではない。なかには、いつも通りの生活をしていて、何のきっかけもなく元気がなくなりうつになる人も少なくない。

高齢者のうつは「身体性」なのである。外的な要因に引き起こされるのではなく、他の身体疾患と似て、身体の内から突然起きてくる印象が強い。これが若い人なら、過重労働や仕事の人間関係のもめごと、恋愛でのごたごたや悩みからうつになることがよく見られる。これはまさにストレスであり心の悩みであって、いわば「心理性」である。仕事も恋愛も卒業した人々に「心理性」は少ない。なにより高齢者は経験も知恵も豊富な人生のベテランだ。苦難も辛酸もたくさん味わっていて、多少のストレスで負けたりはしない。

ふってわいたように起こるうつ。憂うつになり、好きなことに興味がなくなり、何もやる気が起きない。時には訳もなくいらいらし落ち着かなくなる。なぜ起きたのか、どうして苦しいのか、本人もわからない。これが高齢者のうつの典型的な状態である。

昔はうつ病といえば、この「身体性」うつのことだった。いまは「心理性」も含めてうつ病とされることがある。精神科でもうつ病の概念は混乱がある。それは治療の混乱にもつながりかねない。「身体性」うつの治療は身体治療、つまり薬物療法が必要である。薬物療法で効果がなければ、電気けいれん療法を検討する。一方、「心理性」は面接による精神療法や、悩みのもとになっている現実の環境調整が第一となる。

高齢者のうつの患者さんや家族のなかにも、「心の病なのに薬を飲むのですか」と疑問を持つ方がいる。高齢者のうつは大半が「身体性」であるからこそ、身体を治療する薬物療法が必須なのである。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[高齢者医療]

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