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【識者の眼】「HPVワクチン接種後の不定愁訴を改めて考える」石﨑優子

No.5033 (2020年10月10日発行) P.63

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-09-30

最終更新日: 2020-09-30

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HPVワクチン(HPVV)接種の積極的勧奨再開に向けて、接種後に現れる不定愁訴を理解し対処法を考慮する必要がある。2013年にHPVV後の多彩な症状をメディアが取り上げて以降、これらの症状がワクチン接種の副反応とする説と無関係とする説とがある。予防接種は一定のリスクを伴うものであり、稀に重篤な症状がみられるにせよ、HPVVに起因する可能性が指摘されている症状の多くは、再考により別の可能性がみえてくるのではないか。

まず既にHPVV接種後の症状との関連性について各所で言及されている体位性頻脈症候群(POTS)について考えてみたい。日本では小児の起立性調節障害(OD)の一つのサブタイプとされているPOTSであるが、この位置づけは諸外国と同じではない。海外では従来から、思春期以降のPOTSは多彩な症状を呈することが報告されている。めまい、動悸、霧視といった循環失調症状、目や口の乾燥、むくみ、悪心、嘔吐、便秘や下痢、頭痛、記憶の障害やmental cloudingと呼ばれる認知の問題、睡眠の問題、肢端紫藍症やレイノー症候群といった症状である。

また最近、POTSとデコンディショニング(deconditioning)との関与も考えられている。長期臥床等の身体不活動により、筋、骨格、循環、呼吸機能等の身体機能が低下して起こるのがデコンディショニングであるが、POTSとデコンディショニングの症状の相似から、因果関係や症状の修飾の可能性が指摘されている。身体不活動からは、遷延する痛みも生じる。痛みがあるために身体を動かさないことで、さらに痛みを生じやすくなることや運動による痛覚過敏が生じることが示されており、身体の不活動が二次的に痛みを引き起こすこともあり得る。なお、このような二次的な症状の可能性は先に厚生労働省の副反応検討部会でも言及されている。

POTSは若年女性に多い問題である。HPVV接種後にPOTSを発症したり、さらにワクチン接種による疼痛やPOTSの症状により、二次的にデコンディショニングが引き起こされたらどうであろうか。HPVV接種による副反応とされる多彩な症状を呈することもありうるであろう。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[HPVワクチン]

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