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AI、どんだけできるねん[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(224)]

No.4931 (2018年10月27日発行) P.65

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-10-24

最終更新日: 2018-10-23

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いまさらであるが、AIの進歩というのはすごすぎる。病理診断分野では、昨年の暮れ、乳がんのリンパ節転移についてインパクトある研究がJAMAに掲載された。

リンパ節転移を見つけることができるアルゴリズムの勝負、コンペティションだ。多くのチームが「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」という、アルファ碁でも使われたのと同じ機械学習を用いている。

110名の転移ありサンプルと160名の転移なしサンプルを用いてAIに学習させたものだ。そして、そのCNNの原理とは、と説明したいところではありますが、ようわからんのです。スンマセン。

転移あり49名分と転移なし80名分の組織切片を用いての勝負で、面白いのは11名の病理医も参戦したことである。結果、2時間の制限時間付きではAIの勝利。病理医が30時間を費やして引き分け、であった。

たった260枚のスライドで「自己学習」しただけでそこまで出来るようになるんですか…。まぁ、10年前に、AIが囲碁のトップ棋士を負かすなどということは誰も考えていなかったことを思うと、不思議ではないのかもしれませんけど。

9月には、Nature Medicineに、もっとびっくりの論文が出た。肺の腺がんと扁平上皮がんの組織診断である。正解率が97%と聞いても、もう驚いたりはしない。しかし、組織切片から、がん遺伝子であるEGF受容体、KRAS、そして、がん抑制遺伝子p53に異常があるかどうかを73~86%の率で診断できるというのを読んで腰がぬけた。

AIは、人間の目にはさやかに見えぬモノをかなりの確度で同定できるのである。う~ん、AI、そこまでできるとは。

コストの面や、診断責任の所在など、実際の医療現場で使われるまでにはまだまだハードルは高そうだ。しかし、AIによる診断はここまできている。薬剤師の業務に関しては、相当な部分がAIで代替可能だとされている。さて、医師の仕事はどこまでAIで代替されるようになるのだろう。

『サピエンス全史』で大きな話題を呼んだハラリの新作『ホモ・デウス』では、生命とはデータのアルゴリズム処理に過ぎない、と論じられている。そんなはずないやろ、と思いながら読んだのだけれど、AIの凄まじい進歩を知ると、そんなもんかもしれんと思えてしまったりもするのである。

なかののつぶやき
「AIって、絶対に遠慮なんかしませんよね。それも人類にとって結構な脅威かもしれん、という気がしています。人間同士だとやんわり言うところをズバズバ言われたらイヤやないですか。それとも、AIは賢いから、この人にはこれくらいの言い方で、とかいう判断をするようになるんでしょうか。そんな配慮されたら、なんか、もっとイヤやけど…」

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