新専門医制度において19番目の基本領域として新設された総合診療専門医への「期待と課題」をテーマに、公益財団法人医療科学研究所が14日、都内でシンポジウムを開いた。「かかりつけ医」などとの違い、養成の目的、若手医師へのアピールポイント、経験を積んだ年配医師への配慮など、論点は多岐にわたった。
シンポジウムの座長を務めた地域医療機能推進機構(JCHO)の尾身茂理事長は、総合診療専門医を巡る状況について「今後の地域医療の質・効率の向上に不可欠であること」は大筋で合意されているものの、医療制度に定着するまでに「越えなければならない課題がある」と整理。主な課題として、①若い医師の不安、②医療関係者の間での理解の不十分さ、③一般市民の抱く疑問―の3つを挙げ、パネリストに討論を促した。
討論の中でまず焦点となったのは、総合診療専門医と「かかりつけ医」や「家庭医」との違いだ。日本医師会の羽鳥裕常任理事(日本専門医機構理事)は「かかりつけ医は気軽に何でも相談でき、確実に専門医に紹介できる医師」とした上で、そうした能力を「学問的に究めた姿が総合診療専門医」との見解を示した。最大の違いは「経験の長さ」であるとし、かかりつけ医のほうが、産業医や学校医などを含めた実地経験が長く、対処する問題も幅広いとの整理を行った。一部で指摘されている「医師会は総合診療専門医の養成に消極的」との見方については、明確に否定した。
日本プライマリ・ケア連合学会の前野哲博副理事長(筑波大教授)は、同学会が認定する家庭医療専門医は「かかりつけ医としても高いレベルで活動しており、(総合診療専門医と)相対立するものではない」と説明。また、総合診療専門医はかかりつけ医より「複雑な問題に、漏れなく、一定レベル以上で対応できる」能力に秀で、患者目線では「ここまで確実に診てもらえるということが担保される」点が異なると指摘した。
かかりつけ医や家庭医療専門医との違いがあるとはいえ、なぜあえて総合診療専門医を養成するのか。この点について、前野氏は「総合診療の最終目標は、“場を診る”“まるごと診る”“ずっと診る”医師になること。最期まで診てくれますかという患者さんの問いに、確かな力をもって『いいですよ』と答えられるのが総合診療専門医」と持論を展開した。
前野氏の分析について、尾身氏は「総合診療専門医は多科ローテーションでは育たないという、大変面白い見方」と評価。全国国民健康保険診療施設協議会の押淵徹会長は「こういう姿が総合診療専門医であると若者にアピールできれば素晴らしい」と述べ、ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長は「総合診療専門医は漠然と捉えられている。どのような魅力があるのかという点を加えてアピールできれば、この領域を目指す若い医師が増えるのでは」と指摘した。
尾身氏は、新専門医制度以前から地域で総合診療を担ってきた「既存の医師への然るべき敬意の表し方」も論点に据えた。羽鳥氏は、専門医の研修制度は「これからの若い人たちのためのシステム」としつつ、現場で経験を積んだ開業医などの不安払拭には「そこ(配慮の仕組み)が一番大事」と述べ、個人の意見として「土日に研修を5、6回受けることで総合診療専門医の受験資格が付与されるような仕組み」を提案した。
一方、前野氏は「専門医資格は国民が医師の能力を判断する情報源」とし、既存のかかりつけ医へのリスペクトの必要性は認めつつ、「専門医の安売りになってはならない」とした。福島県立医大の葛西龍樹教授は「専門医資格を与えることが全てではない」とした上で、「総合診療専門医の教育に関わってもらうという敬意の表し方もあるのではないか」と提起した。