2025年6月23~25日の3日間,アイルランドのダブリンにおいて世界タバコ規制会議(World Conference on Tobacco Control:WCTC)2025が開催され,100カ国以上から約1300人が参加しました。しかし,日本からの参加者は私を含めて5人と少数にとどまりました。
アイルランドは2004年に公共の場所を完全禁煙とした世界最初の国であり,当時の厚生大臣で推進役のミホール・マーティン氏は現在,首相を務めています。WCTC2025の開会式では,マーティン首相が素晴らしいスピーチを行いました。
WCTC2025では,締結20周年を迎えた「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(Framework Convention on Tobacco Control:FCTC)」の誠実な履行の重要性が改めて強調されました。特に,FCTC第11条で推奨されている「タバコパッケージへの写真健康警告表示(pictorial health warning:PHW)」は,各国で進展しており,2023年までに138の国と地域で導入され,世界人口の66.5%がPHWを目にしています。
WHOの西太平洋地域でも,豪州,ニュージーランド,香港,マカオ,マレーシア,フィリピン,モンゴル,カンボジア,台湾,ベトナム,韓国,ラオスなど21カ国がPHWを導入しています。一方で,いまだ実施していない日本については,速やかな導入が望まれています。これは,「1枚の写真は千の言語に値する(a picture says a thousand words)」という言葉の通り,PHWは警告文のみよりもはるかにタバコの真実を伝える効果が高いためです。
日本タバコフリー学会(当学会)は,学術大会のたびにカナダや英国などのPHWを抄録集の表紙や裏表紙に掲載し,後援名義者である厚生労働省に送付して,日本での速やかなPHWの導入を要望しています(図1~3)。



アイルランドのコンビニエンスストアでは,タバコの陳列は禁止されており,マルボロ1箱の価格は約3000円〔17.75ユーロ(1ユーロ=170円換算)〕と高価で,もちろんPHWも表示されていました。ホテルは全館禁煙が義務づけられ,パブも完全禁煙でしたが,屋外の路上喫煙対策は今後の課題と感じられました。
WCTC2025で大きな議題となったのは,加熱式タバコと電子タバコです。アイルランドでも,キャンディのような見た目のニコチン入り電子タバコがオープンに陳列され,多くの使用者が見受けられました。タバコ産業は手法を変えつつ,世界中でニコチン依存症ビジネスを継続しており,今後もFCTCに則った厳格なタバコ規制の重要性を再確認しました。
最後に,各国政府に向けて以下の5つの大会宣言が採択されました。要約は以下の通りです。原文・詳細については,公式資料をご参照下さい。
1. すべてのタバコおよび医療用を除くニコチン製品の増税を優先的に実施する
2. タバコ産業関連組織との関係を拒絶し,タバコによる健康被害については法的責任を追及し,訴訟などの手段を通じて対応する
3. すべてのタバコの広告,販売促進,スポンサー活動を包括的に禁止する
4. タバコの栽培・製造・流通・使用・廃棄物による環境への悪影響を監視し,対策を講じる
5. タバコは健康享受権を損なう人権問題であることを認識し,市民団体,国際組織,教育機関と協力して包括的規制の履行を支援する