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向精神薬投与中の痙攣発作と薬剤の関係は?【痙攣の原因となる疾患やてんかんの既往がない場合,心因性または薬剤性発作を考える】

No.4908 (2018年05月19日発行) P.58

栗田 正 (帝京大学ちば総合医療センター 神経内科教授)

登録日: 2018-05-21

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77歳,女性。既往歴として5年ほど前から「神経質でイライラする」とあり,精神科クリニックに通院し,向精神薬が処方されています。今まで痙攣やてんかんなどの既往はありません。内服薬は以下の通りです。
①ソラナックス®錠0.8mg(アルプラゾラム)1回1錠 1日3回
②リスパダール®OD錠0.5mg(リスペリドン)1回1錠 1日1回
③サインバルタ®カプセル20mg(デュロキセチン)1回1カプセル 1日3回
④リスミー®錠1mg(リルマザホン)1回1錠 1日1回(就寝前)
⑤ハルシオン®錠0.25mg(トリアゾラム)1回1錠 1日1回(就寝前)
⑥抑肝散1日7.5gを3回にわけて投与
⑦セディール®錠5mg(タンドスピロン)頓用(イライラ時)
2016年12月8日,骨粗鬆症による腰椎圧迫骨折で入院。ハイペン®錠200mg(エトドラク)1回1錠 1日2回内服。時々イライラ感を訴えましたが腰痛は軽減し,近日中に退院の予定でした。
2017年1月30日,頻尿,排尿痛を訴え,膀胱炎としてクラビット®錠500mg(レボフロキサシン)1回1錠 1日1回を投与し,2月2日まで継続しました。2月1日,イライラするということで精神科クリニックを受診。タンドスピロンは中止し,セパゾン®錠(クロキサゾラム)を頓服するように指示され,2月2日,午前中と午後の2回内服しましたが,イライラ感は改善せず,その後ふらつきや手指の振戦が出現,夜はほとんど眠れませんでした。
2月3日の朝は起き上がることができず,午後4時頃,突然意識消失と硬直性の全身痙攣があり,ホリゾン®錠(ジアゼパム)投与で痙攣は消失。継続時間は約10分間,頭部CTの検査では脳梗塞や脳出血の所見はなく脳の萎縮もなし。血液検査では,低血糖,低Na血症,低Ca血症はなく,また,腎機能や肝機能も正常。今まで物忘れなどの徴候もなく,アルツハイマー病などは否定的。発作消失後は順調に改善し,後遺症はありませんでした。
レボフロキサシン添付文書の「使用上の注意」には「痙攣もある」と記載されています。また,向精神薬,特にクロキサゾラムを内服してから手指の振戦やふらつきがみられたことから,本薬が発作の引き金になったことも考えられますが,文献的には頻度は0.01%と非常に低いようです。
本症例の痙攣発作の原因を,薬剤あるいはその相乗作用に求めるべきかどうかご教示下さい。

(青森県 H)


【回答】

痙攣発作の原因は多岐にわたり,1つひとつ可能性を除外する必要があります。本症例の場合,てんかんの既往はなく,痙攣の原因となる脳器質性疾患や代謝性疾患なども否定的です。残る可能性としては,心因性のものと薬剤性のものが考えられます。

心因性発作は偽発作とも呼ばれ,てんかんの初診患者の5~20%を占めると言われています1)。本症例は焦燥感が強く精神科クリニックで治療を受けており,心因性発作を起こす背景はあると思われます。この場合は,脳波検査が鑑別に有用です。心因性発作の場合,痙攣を繰り返しても脳波は正常であるのに対して,てんかんや他の原因による痙攣発作では,脳波で棘波,徐波の異常が認められます。

薬剤性の痙攣では,その機序として,①もともと患者にてんかんの素因があり,薬剤が発作を誘発した場合,②てんかんの素因のない患者に薬剤自体が持つ催痙攣性により発作が起こった場合,③薬剤自体には催痙攣性はないものの,その薬剤の作用が痙攣を起こす状況を引き起こした場合,があります。

③は,経口血糖降下薬による低血糖や,抗不整脈薬による一過性の心拍停止などで痙攣が誘発されます。また,薬剤性の痙攣では危険因子として,ⓐてんかんの既往,ⓑ高齢者,小児,身体的衰弱,ⓒ腎機能障害,ⓓ電解質障害,ⓔ大量投与,ⓕ相互作用,が挙げられています2)

本症例の場合,ⓑとⓕが該当し,通常報告されている各薬剤の痙攣の副作用の頻度よりも高くなることが予想されます。服用中の薬剤をみると,ご指摘のように痙攣発作の原因としてレボフロキサシンが最も可能性が高いと思われます。神経細胞の抑制性神経伝達物質としてγ-アミノ酪酸(GABA)がありますが,ニューキノロン系抗菌薬はGABA受容体の阻害作用を有し,その結果,神経細胞の興奮性が高まり痙攣を誘発すると想定されています2)。特に本薬はフェニル酢酸系やプロピオン酸系の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用で痙攣の誘発頻度が高まることが報告されているので注意を要します。

ご質問ではクロキサゾラムによる痙攣も心配されていますが,本薬はベンゾジアゼピン系抗不安薬で,同じ系統のジアゼパム投与により痙攣は消失していることから,原因としては考えにくいと思います。

【文献】

1) 日本神経学会, 監:てんかん治療ガイドライン2010. 医学書院, 2010, p126-7.

2)栗田 正:日本臨牀. 2012;70(Suppl 6):640-4.

【回答者】

栗田 正 帝京大学ちば総合医療センター 神経内科教授

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