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神経筋電気刺激によるトレーニング器具を高齢者のリハビリに応用できるか?【高齢者への応用で臨床では効果を実感できているが,エビデンスは不十分】

No.4907 (2018年05月12日発行) P.59

志波直人 (久留米大学医学部整形外科学教室主任教授)

登録日: 2018-05-12

最終更新日: 2018-05-08

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電気刺激療法の一種と思いますが,静電気刺激によるトレーニング用の器具が販売されています。高齢者が肺炎などで入院し,下肢などの筋力が低下して寝たきりになるのをこのような器具で予防することができないでしょうか。リハビリテーションを行うのは,本人も介護者も大変です。若者の腹筋が静電気刺激で鍛えられるのであれば,同じ方法で下肢筋力と筋量を増やせると思うのですが,いかがでしょうか。

(千葉県 K)


【回答】

(1)電気刺激治療法の種類と用途

電気刺激治療法には,鎮痛を目的とした経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS),骨格筋の収縮を目的とした機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES),治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:TES)があります。

臨床では,疼痛緩和目的に施行されるTENSが普及し,広く稼働しています。FESは,中枢性麻痺に対する機能再建に用いられます。TESは,電気刺激で得られた筋力を筋力増強などの手段として用いるもので,スポーツ選手,骨関節疾患,慢性心不全,COPD患者などで筋力増強効果が多く報告されています1)。高齢者への応用は,その効果を臨床では実感できるものの,残念ながら現状ではエビデンスが不十分であり,臨床研究が継続して実施されています。

(2)電気刺激骨格筋収縮の生理学的特徴

骨格筋細胞は,神経細胞と比較して興奮性が著しく低いため,一般的な電気刺激で直接筋が興奮して収縮することは困難で,運動神経(通常は神経筋接合部の神経:モーターポイント)が刺激され,これを介して筋が収縮します。正式な医学的表記は,神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:NMES)です。前角細胞以下の2次運動ニューロン障害においては,電気刺激では収縮せず,骨格筋電気刺激の適応外となります1)

自発収縮では,運動強度により遅筋線維から速筋線維へと順次賦活されますが,電気刺激では,速筋の運動神経の軸索径が太く電気抵抗が低いため,同程度の強度の自発収縮に比較すると速筋が優位に収縮します。電気刺激で遅筋が十分に活動するという証明は得られていません。

さらに,電気刺激筋収縮は,刺激強度によっては血清CK値が上昇し,自発収縮とは異なる運動効果が得られたとの報告があります。これは,強い電気刺激強度で,より大きな筋力増強効果が期待できる反面,筋損傷に留意して刺激強度が過大とならないよう注意する必要があることを示しています。

電気刺激筋収縮の特徴をまとめると,①表面電極では深部筋は賦活できない,②神経筋接合部付近の神経が電気刺激され筋収縮する,③相対的に速筋収縮優位となる,の3点となります。

(3)電気刺激を用いた新たな筋力増強法

電気刺激と自発の筋収縮のそれぞれの生理学的特性を補完する方法として,両者を組み合わせた訓練法が注目されています。その1つに,様々な運動と組み合わせて拮抗筋の電気刺激収縮を主動作筋の運動抵抗とするハイブリッドトレーニングシステム(hybrid training system:HTS)があります2)3)。高齢者に対する筋力増強効果のほか4),代謝への効果も報告されています5)。国際宇宙ステーション利用実験でも宇宙飛行士の筋骨格系萎縮予防効果が確認されています6)。このように,運動に電気刺激を組み合わせることによって,様々な分野で,より効果的に訓練ができる可能性があり,私たちの施設においても企業や複数診療科との共同研究が継続して実施されています。

(4)効率的・効果的な筋力増強のために

早期離床,早期退院,早期社会復帰,高齢者の寝たきり予防など,筋力増強を効率的・効果的に行うために,骨格筋電気刺激(神経筋電気刺激)は,その生理学的特性を理解して用いることで,より有益な方法になると考えられます。

【文献】

1) 松瀬博夫, 他:J Clin Rehabil. 2012;21(6):553-4.

2) Matsuse H, et al:Aviat Space Environ Med. 2006; 77(6):581-5.

3) 大本将之, 他:Jpn J Rehabil Med. 2017;54(1):27-30.

4) Takano Y, et al:Tohoku J Exp Med. 2010;221(1): 77-85.

5) Kawaguchi T, et al:J Gastroenterol. 2011;46(6): 746-57.

6) Shiba N, et al:PLoS One. 2015;10(8):e0134736.

【回答者】

志波直人 久留米大学医学部整形外科学教室主任教授

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