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インフルエンザワクチン接種後の抗体価低値時に再接種は必要か?【有意な抗体価水準を得られる可能性は示されておらず,1回接種で経過観察が望ましい】

No.4905 (2018年04月28日発行) P.58

関 雅文 (東北医科薬科大学病院感染症内科・感染制御部教授)

登録日: 2018-05-01

最終更新日: 2018-04-20

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65歳,男性,医療従事者。インフルエンザワクチン接種1カ月後のワクチン接種株4種類のHI抗体は,いずれも10倍でした。成人の2回接種の有効率は低いと考えられますが,このような場合2回目の接種を行うべきでしょうか。文献も併せてご教示下さい。

(宮崎県 O)


【回答】

ご指摘通り,インフルエンザワクチンの有効防御免疫能の目安として,HI抗体価40倍が示されており,10倍はいささか低い印象です。

ただし,健康な成人や基礎疾患(慢性疾患)のある人を対象に行われた研究から,インフルエンザワクチン0.5mLの1回接種で,2回接種と同等の抗体価の上昇が得られるとされ,世界的にも成人の1回接種が標準的となっていることはご承知かと思います1)2)。一方,1回目で有意な抗体価上昇がみられなかった健常成人が,2回接種で有意な抗体価水準を得られる可能性もはっきりと示されていませんので,やはり1回接種で,まずは経過観察して頂きたいと思います。

現在,明らかに2回接種がよいと示された成人症例は,固形臓器の移植を受けた免疫抑制患者であり,特にH3N2やB型インフルエンザにおける米国のエビデンスが示されています3)

必ずしもHI抗体価に代表される液性免疫のみでインフルエンザ感染症に対する防御能が決定されるわけではないと考えますが,ハイリスクとされる心疾患や糖尿病などの一般的な成人病合併例でのはっきりした2回接種のメリットは示されていないようです。

また,現在では,オセルタミビルのほか,ラニナミビルも含めた抗インフルエンザ薬の予防投与の有用性がしっかりとしたエビデンスを持って示されつつあります4)。現実的にはワクチンのみならず,手指衛生・マスクなどの感染防御策,そして予防投与などの方策を組み合わせて,流行期を乗り切るのがよろしいのではないかと考えます。

【文献】

1) 廣田良夫, 他:平成23年度厚生労働科学研究費補助金 新興インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業─予防接種に関するワクチンの有効性・安全性等についての分析疫学研究. 2012.

2) 廣田良夫, 他:平成28年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業─ワクチンの有効性・安全性評価とVPD (vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究. 2017.

3) Cordero E, et al:Clin Infect Dis. 2017;64(7): 829-38.

4) Nakano T, et al:J Infect Chemother. 2014;20 (7):401-6.

【回答者】

関 雅文 東北医科薬科大学病院感染症内科・感染制御部教授

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