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在宅酸素療法は患者の健康を取り戻すきっかけとして捉えてほしい[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(1)]

No.4904 (2018年04月21日発行) P.14

登録日: 2018-04-19

最終更新日: 2018-04-18

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高齢化の進展に伴い、医療現場では多様な患者に対応できる医療機器が求められている。中でも 在宅医療関連機器は、小型化や操作性など性能の向上が著しい。本連載では、地域で先進的な取り組みを行っている臨床医が日々の診療の中で信頼を寄せる在宅医療機器とその活用法を紹介していきたい。第1回目は、携帯型酸素濃縮器のハイスペック化で外来での普及も期待される在宅酸素療法(HOT/Home Oxgen Therapy)を取り上げる。【毎月第3週号に掲載】

 “HOT”として認知されている在宅酸素療法は、1985年に保険適用となった。対象疾患は、高度慢性呼吸不全、肺高血圧症、慢性心不全、チアノーゼ型先天性心疾患および重度の群発頭痛の4つ(表)。受療者は約16万人で、うち半数近くがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者とされている。COPDによる死亡者は増加傾向にあり、地域医療におけるHOTの重要性は高まっている。

 

HOT導入で入院を回避できるケースも

HOTは低酸素血症を伴う慢性呼吸不全患者に対し、在宅で酸素投与を行う。住み慣れた環境で療養しながら、趣味や社会活動を継続できるようにするため、今後は在宅医療のみならず外来中心の診療所にも積極的な取り組みが求められる治療法の1つだ。

兵庫県姫路市の寺田内科呼吸器科では、地域のかかりつけ医として14人の患者にHOTを提供している。同院医師の寺田邦彦さんは「従来は、不可逆的に低酸素血症が進行してから開始する治療との認識が一般的でした。しかしHOTは増悪期から回復する間のサポートとしても有効です。酸素流量が増えた携帯型の酸素濃縮器や酸素濃度が上がりやすいオープンフェイスマスクなどを活用することで、低酸素血症というだけで入院の必要があった患者さんが在宅で回復を目指せるケースが増えています」と、早めの介入によるHOTの有用性を強調する。

医療者とメーカーの連携が安心につながる

一般的なHOTの流れは図の通り。同院は帝人ファーマの医療機器販社である帝人在宅医療のトータルサポート(https://medical.teijin-pharma.co.jp/zaitaku/support/)を導入している。患者に対し医療機関経由で酸素濃縮器などの医療機器をレンタルする仕組みだ。この仕組みでは、主治医の指示に従い、同社が患者宅に機器を設置し、使用方法やメンテナンス、緊急時の連絡先などの説明を行う。重要となるのが主治医とメーカーの連携・パートナーシップだ。



「帝人のスタッフが管理目的で患者さん宅に訪問した際、診察室では把握しきれない情報も併せて提供してくれるので、診断や治療方針に活用させてもらっています。患者さんが複数の眼で見守られていると感じてもらえることは安心につながります。呼吸苦は“不安”など情動の変化にも影響されるので、QOL改善にも寄与できていると感じています」(寺田さん)

メーカーからの提案で実施している取り組みの1つが、同院の受付横に設置したパルスオキシメーターだ。「受付でSpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)を測ってもらい、診察室まで歩いてきた時に例えば93%以下に落ちていることが確認できたら、24時間モニタリングを勧めます。COPDは緩やかに進行するケースが多く、低酸素血症の自覚がない患者さんもいるので、HOT導入のきっかけになることもあります」と寺田さんは効果を実感している。

非常時の対応についても「大災害が起きた場合でも十分な対応ができる体制が整っています」と信頼を置く。帝人在宅医療は東日本大震災発生時、発生10分後には被災地の約2万5000人の全患者リストを作成。電話による安否確認と同時に全国から酸素濃縮器や酸素ボンベの手配を開始した。現状では、HOT患者の安否確認や酸素供給などは業者メインで行うしかなく、HOT導入に際しては、こうしたバックアップ体制の確認もポイントとなる。

患者が気づかないうちに手を差し伸べる

寺田さんは病院の呼吸器科で長年経験を積んだ専門医だが、非専門医にもHOT導入を勧めたいと語る。

「呼吸器の複雑な疾患の診断をするわけではなく、低酸素血症を見逃さず捉えてあげればいいので非専門医でも十分対応できます。患者さんの呼吸が速いかなと感じた時にSpO₂を測ってみる。病状悪化、不安定化の要因が低酸素血症であれば、HOTで改善しうることを患者さんやご家族に説明する流れになります。臨床の醍醐味は、患者さんが症状を強く認識していないうちにそっと手を差し伸べてあげること。それによって予後が改善すれば信頼関係が構築でき、『またこの先生に相談してみよう』という気になるのではないでしょうか。入院を要するまで悪化する前に、かかりつけ医の先生が患者さんに救いの手を差し伸べる。そのツールとしてHOTが活用されることを願います」

非専門医がHOT導入を躊躇するハードルの1つとして酸素量の決定やCO₂ナルコーシスへの懸念がある。寺田さんは「HOT開始後しばらくは注意が必要ですが、携帯型の酸素濃縮器の流量でCO₂ナルコーシスが起きることは稀です。低用量で開始して患者さんの容体に改善が認められないなど不安を感じた時点で、すぐ血液ガスなどの評価を行うか、専門医療機関へ相談される形が良いのではないかと思います」とアドバイスを送る。

ADLを維持するためのツール

携帯型酸素濃縮器は年々改良が進み、寺田さんが使う「ハイサンソポータブルαⅡ」はコンパクトながら連続1L/分の流量を達成、外出時の利便性が高まった。

「低酸素血症予備群の方はADLを高いレベルで維持している場合が多い。高齢者が増えていくこれからの時代には、ADLを落とさず、旅行も楽しめるような日常を送るための効果的なツールとして、HOTの普及が進んでほしいと思います」(寺田さん)

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