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胃がんリスク層別化検査におけるピロリ菌抗体価判定基準変更の理由は?【胃がん低リスクとされるA群からの胃がん発生が少なくないことと,A群患者の増加による】

No.4902 (2018年04月07日発行) P.58

笹島雅彦 (認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・ 治療研究機構事務局)

三木一正 (認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・ 治療研究機構理事長)

登録日: 2018-04-05

最終更新日: 2018-04-03

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胃がんリスク層別化検査(ABC検診)において,2018年4月よりヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:Hp)IgG抗体価の判定基準が「10U/mL未満」から「3U/mL未満」に変更された理由についてご教示下さい。

(東京都 S)


【回答】

今回の変更で気をつけて頂きたいのは次の点です。

①Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱを用いた場合のみの基準である(ラテックス法の測定キットには適用できない)
②3U/mL未満であっても「胃がん低リスク」とは言い切れない(3U/mL未満のHp感染例もある)
③Hp感染診断(現在の感染の有無)の判定基準は従来通り10U/mL未満である(Hp除菌の際には注意が必要)

胃がんリスク層別化検査において,胃がん低リスクとされる「A群」からの胃がん発生は少なくない,ということは胃がんリスク層別化検査が実施されて以来問題になっていました(いわゆる偽A群問題)。A群はHp感染がなく(Hp抗体陰性),胃粘膜萎縮がない(ペプシノゲン法陰性)と推定される群ですが,内視鏡検査をしてみるとHp感染が疑われる萎縮性胃炎が認められる場合が少なからずあります。その原因として,Hp除菌後など,過去にHp除菌歴のある者がA群に混在していることがわかりました。そこで認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構では,2009年にHp除菌歴のある者は胃がんリスク層別化検査による胃がんリスク判定の対象とせず,胃がん高リスクである「E群」として,定期的な画像検査の対象者とすることを提唱しました1)

しかし,受診者のHp除菌歴の記憶があいまいであったり,問診が不十分な場合には「E群」の分類は機能せず,またHp除菌療法以外の医療行為,その他の要因でHpが排除されてしまう場合や,加齢による免疫能の低下によりHp抗体が基準値以下に低下する場合もあるため,「E群」の設定だけで偽A群問題は完全に解決することはできません。

国民のHp感染率の低下からA群の割合が増えたことにより,偽A群問題はさらに無視できなくなり,2015年に日本ヘリコバクター学会からは「血清ピロリ菌抗体検査結果判定に関する注意喚起」として,血清Hp抗体検査結果で,カットオフ値未満(陰性)で低値ではない場合(Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱでは3.0~9.9U/mLの場合。他キットでは不明),現在や過去の感染例が相当数含まれるので,胃がんリスクがない(胃がんリスク評価の「A群」)と判定せず,必要に応じて他の検査(胃がんリスクを判定する場合は内視鏡検査など,現感染を判定する場合は尿素呼気試験など)を追加するように,という提言がなされました。

この提言を受けて,有志による「ABC分類運用ワーキンググループ」が1年間議論を重ね,9施設,6446例の検討から,「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱを使用した胃がんリスク層別化検査」の運用においては,従来の「10U/mL未満」からキットの通常測定限界である「3U/mL未満」に判定基準を引き下げる提案が2016年になされました。

Hp抗体価3U/mL以上10U/mL未満の1132例のうち,画像所見や他のHp検査にてHp現感染と診断できるのが105例(9.3%),過去の感染と診断できるのが868例(76.7%)であり,未感染と診断できるのが159例(14%)でした。しかし,Hp抗体価3U/mL未満でも20%以上の例がHp感染既往であり,3U/mL未満であっても胃がん低リスクと言い切れず(図1),3U/mL未満のHp既感染者の割合は年齢が上がるほど高くなります。100%の基準ではありませんが,キットの測定下限は3U/mLであることを考慮し,日本胃がん予知・診断・治療研究機構も,Hp抗体価の基準を3U/mL未満で運用することを提唱しました2)

日本ヘリコバクター学会も,2018年に学会主導の多施設研究を行い,2519例の検討から,Hp未感染者を効率良くスクリーニングするために推奨できる,Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱの適正なカットオフ値は3U/mL未満であり,陰性的中度は96%であること,60歳未満では3U/mL未満の94%が未感染であるが,60歳以上では82%と低率であること,抗体価3U/mL未満かつ内視鏡的胃粘膜萎縮を認めない(C0,C1)の場合,99%以上はHp未感染であることを報告しています3)

以上が,「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱを使用した胃がんリスク層別化検査」におけるHp抗体検査の基準値を「3U/mL未満」に変更した経緯と根拠です。

現在,Hp抗体検査キットは3社6種が上市されており,EIA法のEプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱに代わり,ラテックス法のキットの使用割合が増えていますので,現場においては数値だけでなく使用キットを確認することが重要です。胃がんリスク層別化検査における各社のラテックス法のキットの最適な基準値はまだはっきりしておらず,緊急の課題と認識しています。

新基準の「3U/mL未満」は前述の通り100%の基準値ではないので,特にHp既感染者の多い60歳以上の高齢者には,A群であっても,画像診断を併用して胃がんリスク評価を行うことが望ましいと言えます。

また新基準での運用より,Hp抗体価3U/mL以上10U/mL未満は胃がん高リスク(B群,C群)に分類されますが,Hp現感染と診断されたわけではありませんので,Hp除菌を行う場合には,尿素呼気試験や便中抗原など,他のHp感染診断によって現感染を確認することが必要です。

【文献】

1) 日本胃がん予知・診断・治療研究機構, 編:胃がんリスク検診(ABC検診)マニュアル. 改訂2版. 南山堂, 2014.

2) 日本胃がん予知・診断・治療研究機構:Gastro Health Now. 2016;増刊号:1-4.

3) 日本ヘリコバクター学会胃がんリスク評価に資する抗体法適正化委員会:日ヘリコバクター会誌. 2018; 19(2):133-8.

【回答者】

笹島雅彦 認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・ 治療研究機構事務局

三木一正 認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・ 治療研究機構理事長

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