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(1)腸内細菌研究は「宝の山」 免疫学者・清野 宏氏インタビュー [特集:腸内細菌の臨床応用の可能性]

No.4807 (2016年06月11日発行) P.24

清野 宏 (東京大学医科学研究所国際粘膜ワクチン開発研究センターセンター長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 腸内細菌の研究者で構成する「公益財団法人日本ビフィズス菌センター」の清野 宏理事長(東大医科研教授)に、腸内細菌研究の現状と可能性を聞いた。

    ─近年、腸内細菌と各種疾患の関係が注目を集めています。その背景を教えてください。

    腸内細菌と免疫研究の歴史を振り返ると、1970年代後半から80年代初頭にかけて、最初の大きな盛り上がりがありました。当時は腸管が免疫臓器だとあまり認められておらず、私は米国で腸管の粘膜免疫を研究していましたが、なかなか腸管免疫にスポットが当たらない時代でした。しかし細菌学の研究者の中には、腸には多数の細菌が存在し、それが病気の発症に影響を及ぼしていると考えている人がいました。日本では光岡知足先生(東大名誉教授)が代表的です。そして光岡先生をはじめ、細菌学の研究者を中心に1981年に創設されたのが日本ビフィズス菌センターです。当時は、糞便から分離して培養できた菌を無菌動物に移入して生体への影響をみる研究が行われていました。手前味噌ですが、当時私も無菌動物に大腸菌を曝露すると腸管免疫の発達が促進されるなどの論文を発表しています。
    そして、この10年の間に急速に研究方法の技術的革新が進んだことで、現在、大きなブレークスルーを迎えています。腸内には約100兆個以上の細菌が存在していると言われていますが、これまでは、その1%にも満たない細菌を分離培養していました。しかし今は糞便中の細菌の遺伝子情報全体を解析でき、どの細菌がどれくらい存在しているのかが分かるようになったのです。サイエンスの方法論が大きく変わり、先人達の仮説や現象的成果を科学的に証明できる時代になりました。
    腸内細菌は人間の生存に必要な栄養素を提供したり、特定の免疫細胞を発達・誘導させることなどが分かっています。人間が生存できているのは腸内細菌のおかげかもしれません。腸内細菌は人間が地球上に誕生してから人間と共に進化してきました。私は、腸内細菌を“もう1人の自分”だと捉えています。

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