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わが国における無痛分娩の現状と,その望ましいあり方について【需要は増大。妊産婦死亡率は特に高いわけではない。人的・物的資源の整備が課題】

No.4897 (2018年03月03日発行) P.54

渡辺とよ子 (わたなべ医院院長/元都立墨東病院副院長)

海野信也 (北里大学医学部産婦人科教授)

登録日: 2018-02-28

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  • わが国における周産期医療の進歩は目覚ましく,周産期死亡率は世界のトップの成績を誇っています。しかし無痛分娩の普及は欧米と比べようもないほどに低く,ほとんどの妊婦は「痛みに耐えて母になる」のが現状です。たとえ無痛分娩を希望しても,健康保険が適用にならないために,高額な費用が請求されます。
    女性の出産年齢の高齢化も考慮しますと,ますます妊娠・分娩による合併症や難産が増える中,無痛分娩にどのようなメリットがあるのでしょうか。また,より安全な体制をどのようにして構築すればよいのでしょうか。わが国の無痛分娩をリードしてこられた北里大学・海野信也先生にお話を伺いたいと思います。

    【質問者】

    渡辺とよ子 わたなべ医院院長/元都立墨東病院副院長


    【回答】

    わが国は,国民の自然分娩指向が強く,欧米諸国では標準的分娩様式となっている無痛分娩の普及がどうしても進まない,というのが,長年無痛分娩の普及に携わってきた「分娩と麻酔研究会」および「日本産科麻酔学会」の関係者の認識でした。2008年に実施された調査1)では,無痛分娩の実施頻度は全分娩の2.6%と推定されていました。ところが,2017年に無痛分娩に関連した医療事故事案の報道をきっかけとして,無痛分娩の安全性への懸念が社会的関心事となったことで,日本産婦人科医会で無痛分娩の実施実態に関する全国調査が行われ,無痛分娩が急速に増えている実態の一端が明らかになりつつあります。

    (1)わが国の無痛分娩の現状

    医会調査によると2014年の無痛分娩実施率は4.6%,2015年は5.5%,2016年は6.1%となっており,2008年の2.8%と比較しても無痛分娩の実施数は近年急増していると考えられます。このような急速な増加は妊産婦の要望なしには起こりえないことです。この無痛分娩需要の増大に対して,産科医療体制として適切に対応できていない可能性が考えられます。

    無痛分娩は53%が産科診療所,47%が病院で行われており,全分娩のうち産科診療所の取扱い率が46%であることを考慮すると,産科診療所でより積極的に無痛分娩が実施されていることになります。

    2008年の調査では麻酔科医が担当した帝王切開の麻酔は全体の42%となっています。麻酔科医の不足状況には大きな変化はない(地域によってはむしろ悪化している)ので,麻酔科医の関与しない無痛分娩が多数実施されていると考えられますが,その実態はまだ数値的には示されていません。

    妊産婦死亡等の事故報道が続いたことから無痛分娩の安全性に懸念が持たれています。しかし,限られたデータからの試算では,わが国の無痛分娩における妊産婦死亡率は出生10万当たり5程度と推定され,全体と比較して著しく高いとまでは言えないようです。

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