音楽プロデューサーの小室哲哉さん(59歳)が引退会見において、妻の高次脳機能障害の介護について本音を吐露した。介護疲れからの介護離職とも言えよう。多くの国民が小室さんの境遇に同情し、高次脳機能障害や認知症の介護疲れに関心が集まっている。そこで今回、高次脳機能障害や認知症など思うように意思疎通が図れない人の介護疲れについて考えたい。小室さんのような境遇の人から相談された時に、医師としてどんなアドバイスをすべきか、どうサポートすべきなのか、経験と私見を述べたい。
小室さんの妻のKEIKOさん(45歳)は2011年10月、くも膜下出血で倒れ、現在は在宅療養中である。小室さんの介護生活は6年以上に及んでいるが、KEIKOさんは高次脳機能障害で、小学校4年生レベルの漢字ドリルでリハビリをしているという。高齢で寝たきりの親の介護とはまた異なる性質のストレスが相当たまっていることは容易に想像できる。私は小室さんと同じ歳なので、とても人ごとに思えない。同世代の仲間との会話にも、年々親や配偶者の介護の話題が増えている。
小室さんは、おそらく奥さんのためと判断して、施設や病院ではなく在宅での療養を選んだのであろうが、在宅介護が抱える課題を克服するにはどのような方法があるのだろうか。私も在宅療養を選んだ高次脳機能障害の患者さんを何人か診ている。易怒性や暴力、反対にアパシーなどへの対応に疲れ、介護者がイライラしている場面に遭遇する。日々の在宅診療のなかで「虐待」という二文字が脳裏をよぎることは決して稀ではない。自分が介護する身にならないと介護の辛さは分からない、とよく言われる。