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(1)わが国での舌下免疫療法の歩み[特集:舌下免疫療法の現状]

No.4890 (2018年01月13日発行) P.24

米倉修二 (千葉大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科診療講師)

登録日: 2018-01-12

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  • 舌下免疫療法(SLIT)は,1980年代から海外で開始された比較的新しい治療法である

    わが国におけるスギ花粉症に対する舌下免疫療法は,2000年代から医師主導で開発が始まった

    スギ花粉症に対する舌下免疫療法は,製薬企業の第2/3相試験を経て,2014年から一般治療として開始された

    わが国におけるダニを原因とする通年性アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法は,海外企業が作成した錠剤を使用することで,2015年から一般治療として開始された

    1. 世界における舌下免疫療法(SLIT)の歴史的背景

    舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)の二重盲検試験が世界で初めて報告されたのは1986年で,Scaddingら1)によるチリダニを原因とする通年性アレルギー性鼻炎患者を対象とした試験であった。その後もいくつかのコントロール試験による実績が積まれ,1993年にはEuropean Academy of Allergy and Clinical Immunology(EAACI)のposition paperにおいて免疫療法の有望な投与ルートとしてSLITが取り上げられた2)。1998年には世界保健機関(World Health Organization:WHO)のposition paperで,皮下投与の代替となる治療法として記載された3)。2001年にはAllergic Rhinitis and its Impact on Asthma(ARIA)のガイドラインで,SLITの成人および小児における有効性と安全性の高いエビデンスレベルが評価されている4)。2000年代に入るとさらに数多くの試験がなされ,SLITの有用性は揺るぎないものとなった。

    2. わが国におけるスギ花粉症に対する舌下免疫療法の歩み

    従来,わが国に特有と言えるスギ花粉症に対して皮下投与による免疫療法が施行され,2000年には標準化スギ花粉エキスも市販された。ただし,注射のために通院が必要であること,痛みを伴うこと,頻度は少ないながらもアナフィラキシーなどの重篤な副作用の可能性があることなどから,患者だけでなく医療従事者側の負担も大きいため,その施行数は減少の一途をたどった。

    代替の投与ルートとして欧米で開始されていたSLITの開発が,わが国でも2000年代から複数の施設で始まった。当初は,厚生労働省の支援を受けて医師主導で進められ,千葉大学では2005年からSLITの開発に取り組んできた。千葉大学で施行した臨床試験が厚生労働省に第1/2相前期試験として認められ,その後は製薬企業に引き継がれる形で2010年より第2/3相試験が開始し,2014年から一般治療として開始された。

    1 2005~2006年ランダム化プラセボ対照二重盲検試験

    2005年10月から2006年4月まで,67人のスギ花粉症患者を対象にランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験を施行した5)。実薬群は,国内で入手することのできる最も高濃度のエキスである標準化スギ花粉エキス2000JAU/mL 1.0mLの週1回投与を維持量とした。プラセボ群と実薬群の割付けは1:2とし,最終的に解析を行ったのはプラセボ群22例,実薬群41例であった。実薬群13例に口腔の局所反応などの有害事象を認めたが,すべて軽症であり治療を必要としなかった。2006年のスギおよびヒノキ花粉飛散数はダーラム法にて1154個/cm2であった。花粉飛散期の症状薬物スコアは,実薬群で症状悪化が抑制され,花粉飛散ピーク時における症状薬物スコアはプラセボ群と比較し実薬群で有意な改善効果が認められた(図1)。末梢血単核球の検討では,プラセボ群に比べて実薬群でスギ花粉特異的Th2サイトカイン産生細胞のクローンサイズが低下していた。

        

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