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蘭(ラニ)[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.137

鈴木好夫 (内科すずきクリニック院長)

登録日: 2018-01-09

最終更新日: 2017-12-25

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秋の七草のフジバカマ(藤袴)は物語性があって面白い。秋の東京都立神代植物公園を訪れ、一叢の、初めてのフジバカマのよい香りは思いのほか強い。

京都を歩くと御所、東寺、スイーツのお店に鉢植えのフジバカマがそこによく似合い見入ってしまう。平安朝文学『源氏物語』30帖「藤袴」をネットで容易に、夕霧が玉鬘に御簾の端から蘭(ラニと読んでいた)を差し入れる物語が読める。読むとこの蘭が藤袴であるとすぐわかる。奈良朝の人山上憶良は七種花に藤袴をあげたが、蘭という言葉は当時ない。

「蘭─それを字音にてラニと唱へしは紫式部(源氏物語)を始とす」(古今要覧稿)。フジバカマが京都でさまになるのは一朝一夕ではなさそうだ。

1998年、京都西山の大原野でフジバカマの原種が発見された。大原野に先頃行ってみた。発見の原生種のフジバカマが駐車場くらいの広さの畑に栽培されていた。アサギマダラ2頭が飛んでいた。京都市内でも中京の寺町道沿いに地植え、鉢植えのフジバカマを町の住人は誇らしげだ。フジバカマの「オーデコロン」を買った。東京ベースなら鬼子母神、毘沙門天、粋な黒塀にあんどん仕立ての朝顔、酸漿なので大違い。フジバカマを蘭(ユーパトリウム属)というのは上に見た通りである。ところが、いつの間にオーキッドが蘭(ラン)になってしまった。牧野富太郎氏によれば、フジバカマには無断とのことである(『植物記』)。我々もそうしている。

フランス・ジヴェルニーのモネの水の庭の「日本の橋」の近くに、フジバカマが咲いている。ターミナル駅パリ東駅のTGV(超特急)の車輪近くにフジバカマが咲いていた。撮影し帰国して調べてみると、両方ともよく似ているヒヨドリバナ(ユーパトリウム属)のようだ。香りのあるのはユーパトリウム属の中でフジバカマだけ。山上憶良も紫 式部もいないフランスでは、フジバカマにこだわらないのかもしれない。

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