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福島の心のケア─廃炉まで40年、息の長い支援始まる[震災5年 医療は今]

No.4796 (2016年03月26日発行) P.10

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-26

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  • 昨年3月、福島の精神保健関係者にとってショッキングな調査結果が『ランセット』誌で発表された(表)。警察庁が取りまとめた自殺者数から被災3県の標準化死亡比(SMR:人口構成の違いを除去した数値。100が日本の平均)の推移を報告した論文だ。東日本大震災後に3県とも下がったものの、2014年に岩手、宮城は震災前の水準に戻り、福島は震災以前よりも顕著に増加していた。

    共著者の前田正治さん(福島県立医大)は「原発事故が起きた福島は他被災県と異なる様相を呈しています。長期にわたる慎重なフォローと、詳細な自殺率の検討、自殺予防の取り組みが重要です」と強調する。なお、災害後に自殺率が低下するのは“ハネムーンフェイズ”と呼ばれ、地域社会のつながりの強化によって、しばしば見られるという。

    震災後に福島県に新設された大規模なメンタルヘルスに関する支援組織は、福島県立医大放射線医学県民健康管理センターと、県内6カ所に設置された「ふくしま心のケアセンター」がある。前田さんは両組織を主導する1人だ。

    県民健康管理センターでは2012年から、避難経験がある21万人に「こころの健康度・生活習慣調査」を実施。これはコホート調査ではなく、県民を見守る健診という性格のもので、うつ病等が疑われた場合にはカウンセラーが電話支援を行う。このような大規模アウトリーチ型支援は日本で初めての取り組みだ。調査の結果、うつ病や不安障害が疑われる人は約1割。日本の平均より2〜3倍高い値だ。

    今年2月の調査では、支援対象者は約4000人に上った。10数名のカウンセラーで対応するため、すべての対象者に電話支援を行うのに数カ月かかる。調査の課題について前田さんは、カウンセラーのマンパワー確保と、現状25%ほどの調査の回答率を上昇させることだと指摘する。


    前田正治氏
    1984年久留米大卒。2013年10月福島県立医大災害こころの医学講座主任教授。現在、放射線医学県民健康管理センター健康調査部門長兼こころの健康・生活習慣調査支援室長。ふくしま心のケアセンター副所長も務める

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