がんと同様,心不全でも緩和ケアが必要である
心不全自体の治療と並行しながら緩和ケアを行う必要がある
心不全末期には多面的な問題に対応するため,多職種からなるチームで診療にあたるべきである
心不全は寛解増悪を繰り返しながら悪化するため,患者や家族と適切な時期に適切な話し合いを行い,医療を進めていく(アドバンス・ケア・プランニング)
「緩和ケア」は,がんに罹患した患者について痛みや吐き気といった身体症状を軽減するとともに,精神面での変調,社会的・経済的問題を多面的にサポートする医療として認識されており,今やがん治療において主軸のひとつをなす医療となっている。心不全を含めた非がん疾患でも,末期・終末期の苦痛は著しく,緩和ケアの対象となると考えられるが,現時点では広く取り組まれているとは言いがたい。
がんの緩和ケアと心不全の緩和ケアとに本質的な違いはないが,悪性疾患と慢性疾患という大きな違いがあり,病態の進行過程や症状の出現経過が異なる。そのため,心不全緩和ケアではがんと異なった対応が必要なことが多い。
まず,終末期を迎える経過の違いである。末期から終末期に至る経過は,がんの場合,比較的QOLが保たれた状態で経過し,死の1~2カ月前から急速に体調やADLが低下する。一方,心不全では,寛解増悪を繰り返しながら数年かけて身体機能が低下することが多い。状態が悪化しても,治療によりいったん低下した身体機能が改善するが,最期は比較的急速に悪化し死を迎える(図1)1)。心不全治療に付随して劇的に身体機能が改善しquality of life(QOL)も向上するため,病気の治療そのものが緩和ケアであるという側面を持つ。
次に,心不全では末期~終末期になっても機械的循環補助や心臓移植など積極的治療の選択肢が残されうることが特徴である2)。「緩和ケアを中心とした医療を受ける」というと一般的には積極的治療をあきらめ,症状を和らげるだけの治療に移行したという印象を受けるが,心不全の場合,末期になっても積極的治療のオプションを検討するため,緩和ケアと積極的治療の共存が必要となってくる。
また,心不全では病態が末期状態か否かを判断することが困難なことが多い。Stage Dで表される末期心不全とは,「適切な治療を実施していながら再発する治療抵抗性で,慢性的にNYHAⅢ~Ⅳ度の症状を呈する状態」と定義されるが3),あいまいな部分が存在することと,寛解増悪を繰り返す心不全の連続性から,末期心不全か否かの判断を迷う場合も多い。医療者から患者側への説明が不十分になりがちで,認識が甘いまま知らず知らずのうちに終末期に近い状態となっているケースも多く見受けられる。
これら心不全特有の症状経過を理解した上で,心不全自体の治療と並行しながら症状緩和をめざし,全体としての治療を選択していく意識とスキルが,心不全患者のQOLを高めるために不可欠である。
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