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溶連菌感染症と痛み

No.4884 (2017年12月02日発行) P.47

吉川治哉 (吉川内科小児科院長)

登録日: 2017-12-04

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  • 2016年2月~2017年4月にかけて,痛みで発症した溶連菌感染症延べ35症例について検討した。痛みの部位は,加齢とともに頭頸部から下方へ移動,拡散,多様化すること,発熱や血液検査異常の頻度は低く,痛み以外に溶連菌感染症を診断するための手がかりが乏しいこと,溶連菌感染症の治療により痛みは完治すること,80歳以上の溶連菌感染症は痛みで発症する頻度が相対的に高いこと,80歳以上でみられた難治例の治療経験などについて述べた。高齢者を含め,痛みに対して溶連菌感染症を念頭に置いた診療が望まれる。

    1. 溶連菌感染症に伴う痛み

    痛みは日常診療において多く聞かれる愁訴であり,主観的な感覚でもあるので正確な診療は容易ではない。溶連菌感染症の患者が初診時に咽頭痛を訴えることは少なくないが,同時に他部位の痛みを訴えることもしばしばある。たとえば,溶連菌感染症に惹起されるリウマチ熱による関節痛は周知のことである。

    以前,「溶連菌感染症と下痢」に関して検討し,本誌1)に報告したが,本稿では「溶連菌感染症と痛み」について検討した結果を述べる。

    1 対象

    2016年2月~2017年4月,当院で延べ2586人の患者にA群β溶連菌迅速試験(以下,溶試)を行った結果,942人(36.4%)が陽性を示した。今回の検討では,この942人のうち,溶試施行時に「体の痛み」を訴えた34人(2回発症した患者が1人いたことから延べ35症例)を対象とした。ただし,同時に咽頭痛などの呼吸器症状や腹痛などの消化器症状を伴う者,がん患者は対象からすべて除外した。

    2 方法

    溶試は滅菌綿棒にて患者の咽頭を擦過し,DSファーマバイオメディカル社のA群ベータ溶血連鎖球菌抗原キット・クイックビューDipstick Strep Aを使用して,陽性・陰性の判定は肉眼で行った。陽性の場合,ピンクの発色の強さにより,(⧻)(⧺)(+)の3段階に分類した。

    痛みの強弱は主観によるので臨床経過においては割愛し,痛みの有・無のみとした。体温(BT)は,37℃以上を発熱とした。

    35例中18例(51.4%)に血液検査を行った。採血は当院で行い,検査は保健科学研究所に依頼した。項目は,①CRP定量(C)〔正常値(OK):≦0.3mg/dL〕,②白血球数(WBC)(OK:男性3900~9800/μL,女性3600~9100/μL),③好中球(N)(OK:35~73%),④抗ストレプトリジンO(ASO)(OK:≦160IU/mL),⑤抗ストレプトキナーゼ抗体(ASK)(OK:<2560倍),の5項目である。また,対象の34人が当院における同時期の溶試(+)全患者に占める世代別割合も検討した。

    治療は,痛みの消失を目標とした。アモキシシリン(AMPC),セフジトレンピボキシル(CDTR-PI),クリンダマイシン(CLDM),ミノサイクリン(MINO)のうち,1剤を経口投与(po)した。症例によっては,アンピシリンナトリウム(ABPC),セフトリアキソン(CTRX),リンコマイシン(LCM)のうち,1~2剤の点滴静注投与(div)を併用した。

    3 結果

    痛みの部位については,加齢とともに頭頸部から下方へ移動,拡散し,高齢に至るほど多様になる傾向がみられた。また,37℃以上の発熱を7例(20%)に認めた。血液検査を18例に行った結果,ASO,ASKは全例OKを示した。18例中6例(33.3%)が1項目以上の異常値を示し,うち5例がC異常値を示した。対象の34人が当院における同時期の溶試(+)全患者に占める世代別割合では,70歳代までの26人で6%以下であるのに対し,80歳以上8人では14.8%と高値を示した。

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