1978年に卒業と同時に皮膚科研修医となり、2017年に教授を退職。ほとんどの期間、大学にいたので、記憶に残るのは教授回診である。私にとって、印象深いのは太藤重夫京大名誉教授の回診である。当時の皮膚科病棟の入院患者は慢性難治性の炎症性疾患が中心であった。
私が研修医1年目の夏のことである。私は、ある患者の主治医を命ぜられ、入院後初の教授回診で太藤先生(御歳61歳)から「この疾患はなんや?」と質問された。私は自信満々に外来主治医(講師)の診断通り「慢性湿疹」と答えた。太藤先生は、少しの時間じっと患者の皮疹を観察して、逆に「なんでや?」と私に質問された。この言葉は、私に対する皮膚科学的な質問であったのか、もっと勉強せよとの叱責であったのか、太藤先生の自問自答かあるいは太藤先生が患者の皮疹そのものに問いかけておられたのかは、いまもって解らない。
先生は、こいつとしゃべっても埒があかんと思われたのか、患者に「あんたの仕事はなんや」「いつ頃から皮疹がでたのや」「貴方の家族に同じような病気の人はおらんか?」などなど質問されていた。患者にひとしきり質問されたあとで、私に「皮疹の生検はしたか?」と質問されたので、「来週には顕微鏡用の標本が完成します」と答えると、「できたら持ってきなさい」という指示だった。
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