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新米未亡人[エッセイ]

No.4882 (2017年11月18日発行) P.72

由富章子 (由富内科眼科医院(熊本県玉名市))

登録日: 2017-11-17

最終更新日: 2017-11-14

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  • 前回のエッセイ(No.4869、2017年8月19日)でもお伝えしましたが、2017年6月をもって、わたしは未亡人になってしまいました。おひとり様1年生、新米です。この原稿を書き始めたのは7月、四十九日の法要を終えたばかりの頃。たったそれだけの期間なのに、毎日がジェットコースターに乗っているみたいに凄まじい勢いで変化しています。シングルに戻るということは、単に配偶者がいなくなるということだけではなかったのです。

    最初の1カ月は書類の整理に追われました。クレジットカードや銀行口座、はてはJAFからマイルの清算まで。銀行によって必要書類が異なり、義父の出生地の戸籍まで取り寄せねばならず、もうお手上げです。やむなく、手続きは銀行の相続アドバイザーに頼みました。もちろん有料で、料金は関係する金融機関の数と財産によって異なります。1億円以上の資産のある方は別途料金だそうで、夫とは関係ないものの、なんだか笑ってしまうような制度ですね。

    車の名義変更にも相続人の同意書と実印が必要で、夫婦であってもすんなりと相続できません。幸い夫には隠し子などなく、彼の両親(義母は実印を持っていなかったので、すぐに登録してもらった)も同意してくれたので助かったのですが、疎遠な家族や庶子がいた場合は手間取ること必定です。

    さる銀行からも同意書の提出を求められました。○○証券の関連会社だという○○信託銀行は初耳です。「それで残っていた預金はいくらなのですか」と問い合わせたところ、なんと残高1円。たった1円のためだけに相続人全員の同意書が必要だとは。呆れるやら、疲れるやら。頭が爆発しそうになりました。でも我慢、我慢。

    クレジットカードの清算はまだ終わっていません。3カ月ほど遅れて通知が来るので、亡くなる前日までカード払いをしていた彼の支払額がわからないのです。給料から天引きされるはずだった税金なども1年遅れで通知されるから未定のまま。わたしの相続税も幾らになるのかな、確定申告が怖い。

    現役中の死亡でしたから、会社とのやり取りや残っていた書類の整理など、もう少し時間がかかりそうです。マンションにも100着を超える衣類が残されています。本棚にも高価な本が山積みに。捨てるのはもったいない。でも、読みたくてもわたしには畑違いでちんぷんかんぷん。「まったくもう、死ぬ前に整理してくれていたらよかったのに」と苛立ち、次の瞬間、八つ当たりする相手がいなくなっていることに気がつきます。自分が死んでも残った人が困らぬように、できるだけシンプルにしておかなくてはいけないな。残された人にも終活が必要。これも彼が残した教訓でしょう。

    さて、ひとりぼっちになってわかった最大の教訓は、「自由は楽だが、楽しくない」。

    朝、お弁当をつくらなくてもよくなった。好きなテレビも見放題。お風呂もゆっくり楽しめる。それが良い点。それ以上に困惑するのは、余った時間と、話し相手がいない分、考えねばならぬこともまた増えたという事実です。

    残り1,387文字あります

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